遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

読書

牛を屠る/佐川光晴

牛を屠る 佐川 光晴 (著) 双葉文庫 1か月前に読了した佐川光晴の「日の出」。 https://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/68885255.html 「日の出」は、明治期に戦争忌避のためふるさとを捨てた青年と、彼を取り巻く静謐な人たちを描いた青春群像小説である。 こん…

日本軍兵士/吉田裕

日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 吉田 裕 (著) 中公新書 太平洋戦争での日本人死者は、民間人が80万人、軍人・軍属が230万人の計310万人。そして、その9割が戦争末期、1944年以降のわずか1年ほどのあいだに亡くなったと推算されるという。 兵士は、敵の…

24歳の僕がオバマ大統領のスピーチライター?! /D・リット

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?! デビッド・リット (著), 山田美明 (翻訳) 光文社 本書「24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!」の著者デビッド・リットは、オバマ大統領のスピーチ・ライターだった。2009年に24歳でホワイトハウ…

日の出/佐川光晴

日の出 佐川 光晴 (著) 集英社 夏のはじめ、週刊誌や新聞の書評欄で紹介されていた佐川光晴の「日の出」。主人公が徴兵から逃げるという事前情報にとても惹かれていて、読むべき書籍としてチェックしていた。 時は明治の終わりころ、石川県小松うまれの13歳…

「西洋美術史」/木村泰司

世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」 木村 泰司 (著) ダイヤモンド社 ビジネスエリートでもない私が本書を手に取ったのは、美術史と縁遠いからであったが、「まえがき」を読んだ時点で「これで、お勉強しましょう」と言われているようで少…

複眼の映像―私と黒澤明/橋本忍

橋本忍さんが亡くなられた。享年百歳だった。謹んでご冥福をお祈りします。 前に橋本さんのエッセイのような自伝のような著書を紹介した。映画が好きで黒澤組が好きな私にとってはすこぶる面白い読み物で、夢中になって読んだ。 黒澤組に橋本さんがいなかっ…

真実/梶芽衣子

真実 梶 芽衣子 (著) 清水まり(構成) 文芸春秋 1965年に映画デビューした梶芽衣子(昭和22年1947年生まれ)の芸能活動を中心にまとめられた自署「真実」のご紹介。 少し前、テレビの対談番組「サワコの朝」に、梶が出ていたのだが、素の彼女を見るのは初め…

絶景本棚/本の雑誌編集部

絶景本棚 本の雑誌編集部、 中村規 (写真) 本好きの知り合いが結婚を機に新居を建て、蔵書を格納するための可動式書架の備わった書庫兼書斎を新妻に無断で作った。彼は、読書が好きなのか本集めが好きなのか、まあ両方好きだったのだろうが、多くの蔵書を抱…

百年泥/石井遊佳

百年泥 石井遊佳 新潮社 第158回(2017年下期)芥川賞受賞作のご紹介。 著者は1963年大阪生まれの石井遊佳、インドのチェンナイという都市に在住しIT企業で日本語教師を務めている。本作の主人公も著者と同じく、IT企業の優秀なエンジニアに日本語を教える先…

サラダ記念日/俵万智

サラダ記念日 俵万智 河出書房新社 31年前の昨日、サラダ記念日が発行された。 俵万智のツイッターによると「31年前って中途半端な感じもするけど、短歌的には、めっちゃキッチリです。」とある。 蛇足ながら、短歌は「みそひともじ:三十一文字」で成り立っ…

これからの日本,これからの教育/前川喜平, 寺脇研

これからの日本、これからの教育 前川喜平, 寺脇研 (著) ちくま新書 加計問題で時の人となった前文科省事務次官の前川喜平と、ワイドショーなどでもおなじみの「ミスター文部省」と言われた寺脇研が、この国の行政から教育までを対談形式で語った「これか…

大家さんと僕/矢部太郎

大家さんと僕 矢部 太郎 (著) 新潮社 芸風も体格も、吹けば飛ぶような貧弱な芸人矢部太郎。 その彼のベストセラーエッセイ「大家さんと僕」を読んだ。 本書は文字だけで書かれたエッセイかと思っていたら、全編マンガイラストで描かれたエッセイだった。税別…

オペレーションZ/真山仁

オペレーションZ 真山 仁 (著) 新潮社 日本国の財政破綻を防ぐためのプロジェクトチームが総理大臣の下に編成され、そのチームが「オペレーションZ」(OZ)と命名された。 “Z”とは財務省のゼットで、財務省内で編成された男女メンバーのミッションが克明に描…

生涯に本は何冊読めるか

上の画像は、自分の蔵書を売りに出している書籍収集マニア。月1回、ニュージャージでこの書店をオープンして25000冊もある自分の本を売っているのだという。それにしてもよく集めましたねえ。 The Bibliomaniac of Ridgewood https://www.nytimes.com/2018/0…

SHOE DOG(シュードッグ) /フィル・ナイト

SHOE DOG(シュードッグ) フィル・ナイト 大田黒奉之 (訳) 東洋経済新報社 オレゴン州ポートランド出身で、ナイキの創業者フィル・ナイト(1938年生まれ)の半生を綴った自伝「SHOE DOG」のご紹介。(オレゴン州は、西海岸、北にシアトルのあるワシントン州…

不死身の特攻兵/鴻上尚史

不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか 鴻上尚史 (著) (講談社現代新書) 太平洋戦争時、海軍の特攻隊は「カミカゼ」として知らない人がいないほど有名だが、陸軍にも特攻隊があった。 陸軍の最初の特攻隊が「万朶隊(ばんだたい)」と呼ばれる小隊(整…

鳥類学者だからって鳥が好きだと思うなよ/川上和人

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。 川上 和人 (著) 新潮社 Amazonのカテゴリ「鳥類学」ではベストセラー1位の「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」のご紹介。 本書は、一般書籍の部でも、ベストセラーになっているようだ。 鳥の研究は…

羊と鋼の森/宮下奈都

羊と鋼の森 宮下 奈都 (著) 文藝春秋 2016年に第13回本屋さん大賞に選出され、第154回(2015年下半期)の直木賞候補作にもなったベストセラー、宮下奈都の「羊と鋼の森」のご紹介。 主人公の高校二年生外村(とむら)は、ある夏の日の放課後、先生に言いつか…

蜜蜂と遠雷/恩田陸

蜜蜂と遠雷 恩田陸 (著) (幻冬舎) 恩田陸の直木賞受賞作「蜜蜂と遠雷」のご紹介。 クラシック音楽を(単なるリスナーだが)たまに演奏会で楽しんだり、自宅でデジタル音源を利用していくらかは楽しめる生活をしている。なので、国際ピアノコンクールを舞台に…

作家冥利につきる図書館予約行列

図書館で予約していた本がようやく手元に届きました。去年2月にはじめてネット予約した本でした。 いつか読めればいいかなと予約して待つこと1年。1冊1800円のずしりとした本ですが、1年も待てばその価値たるや1万円くらいに跳ね上がったような気分です。 1…

Black Box/伊藤詩織

Black Box 伊藤詩織 文芸春秋 ジャーナリストの伊藤詩織が、当時のTBSのワシントン支局長に東京で準強姦罪の被害に遭った例の一連の事件。昨日、衆議院の予算委員会質問でそのことが取り上げられており、委員会一般傍聴席には伊藤の姿があった。 本書は、被…

砂上/桜木紫乃

砂上 桜木紫乃 角川書店 桜木紫乃、北海道の芥川賞作家、初めて彼女の作品を読む。 柊令央(ひいらぎれお)は40歳を超え、離婚した男からの月5万円の慰謝料と同級生の男がオーナーシェフのビストロを手伝って得る6万円で生計を立てている。 母のミオが齢60で…

永訣の朝/宮沢賢治

中学1年と2年のときの国語の先生がN先生で、私の担任でもあったのでよく覚えているのだが、その先生に宮沢賢治の「永訣の朝」という詩を習った。 N先生はこの詩を情感豊かに詠んでくれたこともよく覚えていて、賢治の妹が死の床で「あめゆじゅとてちてけんじ…

行人/夏目漱石

行人(こうじん) 夏目漱石 (新潮文庫) 夏目漱石の「行人」。 朝日新聞に「行人」の連載が開始されたのが1912年なので、105年前の小説であるが数十万年の人類の歴史の長さから推し測れば、105年くらいで人の心は変わるものではない。 十代で読んだ「こころ」…

草枕/夏目漱石

草 枕 夏目漱石 (新潮文庫) 明治39年(1906年)、夏目漱石39歳。 4月に「坊ちゃん」を「ホトトギス」に発表した漱石は、9月に「草枕」を「新小説」に発表した。その前年には「我輩は猫である」を「ホトトギス」で発表しており、 この3作は漱石…

彼岸過迄/夏目漱石

彼岸過迄 夏目漱石 新潮文庫 大人になって共通一次の国語の問題を解いていて、三浦哲郎の「鳥寄せ」(短編集「木馬の騎手」)に、胸が熱くなった遠い昔の記憶がある。 また、次女がセンター入試を受験した時、翌日の新聞で、現代国語の問題に挑戦したことが…

春の庭 /柴崎 友香

春の庭 柴崎 友香 (文春文庫) 柴崎友香(ともか)の芥川賞受賞作(第151回/2014年上期)「春の庭」のご紹介。 作品より先に作家の方を知っていて、オードリーの若林が司会をしていた作家ばかりが登場する楽しいトーク番組「ご本、出しときますね?」で、柴崎…

イシグロ・志位・前川・安倍/僕らは同学年

上記画像のお方は、今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ。村上春樹は受賞を逃したが、イシグロの受賞は実に喜ばしい。おめでとう。 ということで、次の4人は偶然に同学年だった。 ■カズオ・イシグロ(Kazuo Ishiguro OBE, 石黒 一雄、1954年11月…

劇場/又吉 直樹

劇場 又吉直樹 (著) 新潮社 芸人で芥川賞作家又吉直樹の第2作目「劇場」のご紹介。 主人公の永田は、大阪の出身で東京の自ら主宰する劇団の座付き作家。永田の一人称で語られる下北沢界隈を舞台にした、彼が街で出会った沙希(さき)という若い女性との恋愛…

飯場へ/渡辺 拓也

飯場へ: 暮らしと仕事を記録する 渡辺 拓也 (著) 手っ取り早くとにかく仕事にありついて現金を手にしようとすれば、「寄せ場」に行ってどこかの工事現場で一日「手元」をすれば、その日に賃金が入ってくる。 「寄せ場」とは、山谷(東京)釜ヶ崎(大阪)寿町…