遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

不死身の特攻兵/鴻上尚史

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不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか 鴻上尚史  (著)  (講談社現代新書)

太平洋戦争時、海軍の特攻隊は「カミカゼ」として知らない人がいないほど有名だが、陸軍にも特攻隊があった。

陸軍の最初の特攻隊が「万朶隊(ばんだたい)」と呼ばれる小隊(整備や通信を含めて15名ほどの隊員)で、アメリカ艦隊に体当たり攻撃をする作戦に、陸軍の最も操縦技術の高い精鋭が集められ編成された。

万朶隊に、9回の特攻出撃を経験したにもかかわらず生きて終戦を迎えた最も年少(21歳)の隊員佐々木友次伍長がいたことを、ある時鴻上庄司は知る。そして、その佐々木がまだ91歳で存命中だと知った鴻上は、驚愕すると同時に自身の小説「青空に飛ぶ」と本書の取材のために北海道に会いに行く。

本書のサブタイトル「軍神はなぜ上官に反抗したか」について、直接本人へのインタビューで明らかにし本書を書き上げた。

このサブタイトルで、上官の食事を命がけで脅し取って飢え死にを免れて終戦を迎えた「ゆきゆきて、神軍 」の奥崎謙三をイメージしたが、佐々木友次の反抗や上層部への思いや恨みは意外とも思えるほどクールなものであった。彼は体当たりをせずに爆弾を落として帰ってきて、2015年まで生き永らえたのである。

特攻隊による攻撃が、不条理である前にいかに不合理なものかが、実際に戦闘機乗りだった佐々木の口から語られる。それは精神論からは程遠い、科学的根拠に基づいたもので、命令をした側の無知無能のほどがよくわかるのである。

本書は「命令をされた側」からの特攻隊を表したものである。一方で、戦後にベストセラーになった「命令をした側」から書かれた「神風特別攻撃隊」 (1967年 猪口力平, 中島正 共著)の引用に多くの字数を割かれている。著者二人は、海軍の若い多く優秀な飛行機乗りを神風特攻隊として死に至らせた張本人たちであったが、特攻隊員が志願兵であるとして責任から逃げ戦後を逃げ切った張本人でもあった。

鴻上は、東条英機に始まり、かの戦争の上層部を本書でクールに徹底的に断罪する。写真付きで実名で登場する士官学校出身の司令官や将校たちプロの戦争屋たちの、そのあまりにも近視眼的な子どもじみた度し難い行動や戦略に、今を生きる私たちは抑えられない憤りを感じることになる。「戦争は、勝つぞと思えば勝てる」のだという精神論から派生する彼らのあまりにもひどい行状は、永久に本書の読者に記憶されることになる。

私は、子どものころから若き特攻兵の壮絶な死に対して怒りや不条理さを感じていた。それは、かの戦争でとてつもなく傷ついた血族や教師や時代に教育された少年だったからだと今になって思うが、本書にも私が影響を受けた平和教育の要素が目いっぱい詰まっている。多くの人に読んでいただきたい。