遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

真実/梶芽衣子

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 真実 梶 芽衣子  (著)  清水まり(構成) 文芸春秋

1965年に映画デビューした梶芽衣子(昭和22年1947年生まれ)の芸能活動を中心にまとめられた自署「真実」のご紹介。

少し前、テレビの対談番組「サワコの朝」に、梶が出ていたのだが、素の彼女を見るのは初めて。映画「女囚さそり」シリーズの頃のクールな感じは影を潜め、普通のセーターにジーンズ姿の梶芽衣子は、70歳にしてさっぱりとしていて好感度アップ。本書「真実」の書評を何かでを目にしたのだが、素の彼女を見ていなかったら、これを読まなかったかもしれない。

高校生の時に銀座でスカウトされ、モデル事務所に所属しながら、NHKのドラマ「若い季節」(1961年~1964年)などでチョイ役として女優人生をスタート。高校を卒業した1965年に日活に入社し本名太田雅子名で映画デビュー。

私が小学年の頃からテレビや映画に出ているのだから、梶芽衣子は大女優といてもいいだろう。タランティーノの「キル・.ビル」は、彼女へのオマージュがちりばめられているが、彼女が歌う「恨み節」が流れるエンドクレジットは、何とも名シーンである。

本書では、半世紀にわたる、日活での駆け出し時代からの映画の裏話や名監督や有名俳優との交流などが軽快に記されていて楽しい。

ただし彼女は「媚びない、めげない、挫けない」と3拍子揃った女優なので、あまり華やかな社交譚は少ない。しかし、それが本書の真骨頂で、実に興味深いノンフィクションに出来上がっている。

最も驚いたのが、あの「鬼龍院花子の生涯」の映画化にまつわるエピソード。ネタバレになるので詳しく書かないが、芸能人の半生記などを読んでいると、人の足元をすくって生きている悪い奴がよく出てきて他人事ながら腹が立つ。

読んでいる途中で、彼女が黒澤映画に出ていたらどうだったろうと思っていたら、実は黒澤明から2回映画出演のオファーが来て、他の仕事とのスケージュールの都合などで、2回とも断らざるを得なかったくだりが出てきた。彼女の悔恨たるや如何ばかりか、想像を絶するが、いまとなればとてつもない自慢話にできるので、さらっと良しとすべきであろう。

本書では、梶と同居して結婚の寸前までいった人以外は、有名人は実名で登場するので、とてもお得感がある。しかも、1人を除いてほとんどが善人として登場するので気持ちがいい。「真実」というタイトルに違和感がないだろう。

ある時、心折れてNYに3カ月いて、そこでブロードウェイで当時上演されていたミュージカルのどんな役でも演じられ(すごい努力!)、アルバイトをしながら代役が来るのを常に待機している若い俳優たちに出会って、自分の恵まれた境遇を反省し「どんな役でもやることにした」当時の彼女の再生と決意にも賛辞を贈りたい。

タランティーノの「キル・.ビル」は、梶芽衣子へのオマージュがちりばめられているが、「恨み節」が流れるシーンは何ともっカッコいい名シーンである。「鬼平犯科帳」が2016年に終了し、彼女の女優人生は一区切りついて、歌手としての活動を再開しているようだが、俳優として、たとえば朝ドラのわき役でお茶の間に顔を出してもいいのではないだろうか。