遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

#小説

2020年に読んだおすすめ本ベスト6

3年続けてきました、私の読んだ本の中からおすすめ本のご紹介。 例によって、読んだ冊数が少ないので、ノンフィクションとフィクションそれぞれ3冊の推薦です。この1年はほとんど引きこもった生活だったにもかかわらず、手を伸ばせば読むべき本が置いてある…

第162回 直木賞受賞作 川越宗一の「熱源」を読みました!

熱源 川越 宗一 (著) 文芸春秋 本作(第162回 直木賞受賞)は、半世紀にわたる(日露戦争の前から終戦直後まで)の樺太とロシアと北海道と東京を舞台にした史実に基づいた大河小説。 1905年と1945年の2度の樺太の戦いや帝政ロシアの滅亡とロシア革命など、領…

100年前(1919年12月)の詩人や作家たちの年齢

恩地孝四郎・作 ツイッターのTLに流れてきた、ちょうど100年前の12月時の詩人や作家たちの年齢。 夏目漱石は?とさがしていたら、すでに亡くなっていました。石川啄木も。 いまにしてみると、それぞれの年齢+5歳~20歳くらいの重厚さを感じます。 朔太郎通…

【読みました・小説】「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ

そして、バトンは渡された 瀬尾まいこ 文芸春秋 2019年の本屋大賞に輝いた瀬尾まいこの「そして、バトンは渡された」を読了。 本書の瀬尾まいこのプロフィールを読むと大阪生まれの45歳とある。瀬尾は2001年に「坊ちゃん文学大賞」を受賞してデビュー。その…

女性におすすめ2019年三島賞の三国美千子「いかれころ」

新潮社主催の文学賞、第32回(2019年)の三島由紀夫賞を受賞したのが三国美千子の「いかれころ」。ちなみに三島賞の選考委員は、川上弘美、高村薫、辻原登、平野啓一郎、町田康のそうそうたる5人の作家で、委員は次回から全員が交代となるようだ。 同時受賞の…

書評執筆陣120人が選んだ「平成の30冊」

2019年8月17日の天声人語に、「高校の国語でこれから、文学が選択科目になる」との哀しい一節があった。国語教育から文学が消えゆく運命にあるということなのか、契約書とかマニュアルなどの実用的な文章を国語の教材にしていく方向なのだという。 国語の教…

平場の月/朝倉かすみ

平場の月 朝倉かすみ 光文社 直近の山本周五郎賞を受賞し、直木賞候補にもなった朝倉かすみの「平場の月」のご紹介。 病院に精密検査に来た男と、その病院の売店のレジでパートをしていた女が偶然出会う。ふたりは地元中学の同級生の50歳の中年男(青砥)と…

熱帯/森見登美彦

熱帯 森見 登美彦 文藝春秋 同じ所をクルクル回っているようで少しずつ進んでいる螺旋状の物語のようだと、感想に書こうとした。でも、同じところを何度も通り過ぎて円運動をしている「フーコーの振り子」と表現したほうが近い物語であった。 一日かかって最…

カササギ殺人事件/アンソニー・ホロヴィッツ

カササギ殺人事件 アンソニー・ホロヴィッツ 山田 蘭 (翻訳) 創元推理文庫 ベストセラーになっている英国発の本格推理小説「カササギ殺人事件」のご紹介。本格推理小説は、海外では「フーダニット(Who done it = 誰が犯行を行ったか)」と称される。 英国の…

駒音高く/佐川光晴

駒音高く 佐川 光晴 (著) 実業之日本社 月曜日に会ったランチ仲間と、例によって今読んでる本の話になって、また私は佐川光晴の著書を推薦しておいた。 その推薦図書は「日の出」「牛を屠る」「駒音高く」だった。それぞれの本の私の口頭レビューは5秒くらい…

ブルックリンの少女/ギヨーム・ミュッソ

ブルックリンの少女 ギヨーム・ミュッソ (著), 吉田 恒雄 (訳) 集英社文庫 フランスのミステリー「ブルックリンの少女」のご紹介。著者は1974年生まれの今年45歳のギヨーム・ミュッソ。 本作は、フランスのコートダジュールに始まり、フランスとアメリカ東海…

ファーストラヴ/島本理生

ファーストラヴ 島本 理生 (著) 文藝春秋 女子大生聖山環菜(ひじりやまかんな)が父親殺人で逮捕され、裁判が始まろうとしていた。 臨床心理士の真壁由紀は、この事件に関するノンフィクションの執筆を依頼され、被告の弁護人となった義弟の庵野迦葉(あんのか…

小説「監禁面接」/ピエール・ルメートル

監禁面接 ピエール・ルメートル 橘 明美 (訳) 文藝春秋 ベストセラー「その女アレックス」のピエール・ルメートルの新作「監禁面接」のご紹介。 主人公アランは、4年前にリストラにより人事部長の職を解かれた失業者。パリでアルバイトをしながら、元の仕事…

地球星人/村田沙耶香

地球星人 村田 沙耶香 新潮社 「コンビニ人間」を書いた村田沙耶香が、とんでもない小説「地球星人」を書いた。 「とんでもない」とは、とんでもなく下劣だと感じる読者もいれば、私のようにとんでもなく面白く思う読者もいるということ。ただ、私は「コンビ…

2018年私の読んだ本ベスト6

以下一覧は、2018年に私が読んだ主な本です(小説とエッセイ・ノンフィクション別、読了順)。 習慣的に「dマガジン」の週刊誌、「朝日」「サンデー毎日」「文春」「新潮」「現代」「ポスト」と、朝日新聞の書評欄をチェックしていて、面白そうな本をピック…

小説「TIMELESS」/朝吹真理子

TIMELESS 朝吹真理子 新潮社 芥川賞作家の7年ぶりの長編小説だという。受賞以来長らく言葉を磨いていたのだろうか、私には、初めての朝吹真理子である。 ストーリーを語ってもネタバレにならないのが、このような詩的な小説。登場人物の名前もなんだか詩的で…

コンビニ人間/村田 沙耶香

コンビニ人間 村田 沙耶香 (文春文庫) 2016年の第155回芥川賞受賞作、村田沙耶香の「コンビニ人間」は、この夏すでに文庫が発売されていた。 村田沙耶香作品は初読み。彼女は、群像新人文学賞優秀賞(2003年)野間文芸新人賞(2009年)三島由紀夫賞(2013年…

日の出/佐川光晴

日の出 佐川 光晴 (著) 集英社 夏のはじめ、週刊誌や新聞の書評欄で紹介されていた佐川光晴の「日の出」。主人公が徴兵から逃げるという事前情報にとても惹かれていて、読むべき書籍としてチェックしていた。 時は明治の終わりころ、石川県小松うまれの13歳…

屍人荘の殺人/今村昌弘

屍人荘の殺人 今村 昌弘 (著) 東京創元社 若いころからミステリ好きで、初期の頃は犯人捜しが主題の本格ミステリ小説を楽しんでいた。 エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」にはじまり、コナン・ドイルの「ホームズシリーズ」やアガサ・クリスティー…

百年泥/石井遊佳

百年泥 石井遊佳 新潮社 第158回(2017年下期)芥川賞受賞作のご紹介。 著者は1963年大阪生まれの石井遊佳、インドのチェンナイという都市に在住しIT企業で日本語教師を務めている。本作の主人公も著者と同じく、IT企業の優秀なエンジニアに日本語を教える先…

オンブレ/エルモア・レナード

オンブレ エルモア・レナード (著) 村上 春樹 (翻訳) 新潮文庫 2018年1月に発売された村上春樹が翻訳した「オンブレ」のご紹介。 本書は中編小説の「オンブレ」と短編の「三時十分発ユマ行き」の二作が収録されている。 今年の新刊だから新しい小説かという…

オペレーションZ/真山仁

オペレーションZ 真山 仁 (著) 新潮社 日本国の財政破綻を防ぐためのプロジェクトチームが総理大臣の下に編成され、そのチームが「オペレーションZ」(OZ)と命名された。 “Z”とは財務省のゼットで、財務省内で編成された男女メンバーのミッションが克明に描…

羊と鋼の森/宮下奈都

羊と鋼の森 宮下 奈都 (著) 文藝春秋 2016年に第13回本屋さん大賞に選出され、第154回(2015年下半期)の直木賞候補作にもなったベストセラー、宮下奈都の「羊と鋼の森」のご紹介。 主人公の高校二年生外村(とむら)は、ある夏の日の放課後、先生に言いつか…

蜜蜂と遠雷/恩田陸

蜜蜂と遠雷 恩田陸 (著) (幻冬舎) 恩田陸の直木賞受賞作「蜜蜂と遠雷」のご紹介。 クラシック音楽を(単なるリスナーだが)たまに演奏会で楽しんだり、自宅でデジタル音源を利用していくらかは楽しめる生活をしている。なので、国際ピアノコンクールを舞台に…

作家冥利につきる図書館予約行列

図書館で予約していた本がようやく手元に届きました。去年2月にはじめてネット予約した本でした。 いつか読めればいいかなと予約して待つこと1年。1冊1800円のずしりとした本ですが、1年も待てばその価値たるや1万円くらいに跳ね上がったような気分です。 1…

砂上/桜木紫乃

砂上 桜木紫乃 角川書店 桜木紫乃、北海道の芥川賞作家、初めて彼女の作品を読む。 柊令央(ひいらぎれお)は40歳を超え、離婚した男からの月5万円の慰謝料と同級生の男がオーナーシェフのビストロを手伝って得る6万円で生計を立てている。 母のミオが齢60で…

罪の声/塩田武士

罪の声 塩田 武士 講談社 1984年にグリコの社長が誘拐されて身代金が要求され、その後、森永製菓やハウス食品などの食品メーカーが、自社の製品に青酸ソーダとともにスーパーに置かれ、日本中がパニックになった「グリコ森永事件」。 私は、その事件の最初の…

行人/夏目漱石

行人(こうじん) 夏目漱石 (新潮文庫) 夏目漱石の「行人」。 朝日新聞に「行人」の連載が開始されたのが1912年なので、105年前の小説であるが数十万年の人類の歴史の長さから推し測れば、105年くらいで人の心は変わるものではない。 十代で読んだ「こころ」…

草枕/夏目漱石

草 枕 夏目漱石 (新潮文庫) 明治39年(1906年)、夏目漱石39歳。 4月に「坊ちゃん」を「ホトトギス」に発表した漱石は、9月に「草枕」を「新小説」に発表した。その前年には「我輩は猫である」を「ホトトギス」で発表しており、 この3作は漱石…

彼岸過迄/夏目漱石

彼岸過迄 夏目漱石 新潮文庫 大人になって共通一次の国語の問題を解いていて、三浦哲郎の「鳥寄せ」(短編集「木馬の騎手」)に、胸が熱くなった遠い昔の記憶がある。 また、次女がセンター入試を受験した時、翌日の新聞で、現代国語の問題に挑戦したことが…