柊令央(ひいらぎれお)は40歳を超え、離婚した男からの月5万円の慰謝料と同級生の男がオーナーシェフのビストロを手伝って得る6万円で生計を立てている。
母のミオが齢60で亡くなったばかりで、その母親の家に暮らすので何とか食べていける生活である。
そこに、妹の美利が実家は私の持分もあるはずだからと転がり込んでくる。寝る所さえあればよくて賄いは要らないので邪魔にはならない。まだ25歳で、美貌と自由を両手に持つ逞しい美利は、実はミオの子ではなく令央が16歳で産んだ娘であった。
そんなとき、小川乙三(おがわおとみ)という大手出版社の編集者が、令央さん小説を書きませんかとアプローチしてくる。令央が過去に投稿し落選したエッセイに目を止めた乙三が、母娘をモチーフに小説が書けるはずだと押してくる。
令央が書き始めた小説のタイトルが「砂上」。本作と同じものだと捉えても間違いではないと思う。
令央は「砂上」を結局3回書き直すことになる。一稿上げるのにヘトヘトになるのだが、乙三が事務的なダメ出しと改善点を口頭で伝え、叱咤激励する。書き直しますかの問いに、令央はイエスと答える。
本作には、ミオと令央と美利の母と娘、編集者乙三、美利を取り上げてくれた静岡の産婆、ビストロのシェフの母親珠子の女6人が登場する。彼女たちは個性豊かに書き分けられていて、でもリアルでもある。リアル過ぎてペシャンコに押しつぶされそうである。
6人の女たちの要に位置するのが令央で、何があっても押し潰されないよう死んだ後のミオの於母影に育てられたしなやかな女は、初刷り4000部の「砂上」を上梓した。
本書は、桜木紫乃と柊令央の共著とも言えよう。良い出来上がりである。