クラシック音楽を(単なるリスナーだが)たまに演奏会で楽しんだり、自宅でデジタル音源を利用していくらかは楽しめる生活をしている。なので、国際ピアノコンクールを舞台にした本作は、とても楽しめた。
そのコンクールは、小説の中では「芳ヶ江ピアノコンクール」として扱われるが、浜松で3年に一度開催される「浜松国際ピアノコンクール」(https://www.hipic.jp/)が、そのモデルとなっっている。
100人近いエントリーの中の4人の若き出場者(コンテスタント)たち、風間塵(じん)、栄伝亜夜(あや)、マサル・C・レヴィ=アナトール、高島明石が主人公。
彼らの第一次予選からの演奏曲へのアプローチが、専門的でもあり観念的でありながら如実に描写されていて、コンクールの優勝者は誰になるのだろうという興味が、最後まですべての読者を楽しませてくれる。
私は、奥付を読もうとして、うっかり無造作なコンクールの結果リストの頁を見てしまった。しかし、内容までは把握するに至らず事なきを得たが、あの無造作な頁はいただけない、要注意。コンクールの優勝を争うのは、物語の中心にいる4人の若者たちだとはじめから容易に想像がつくが、さりとて、覇者の行方はミステリーとして楽しむのが王道であろう。
私は、冒頭のパリの街角で予選に向かう途中の風間塵に出会ってすぐ、一気にこのなんだか天才的な少年の世界に引き込まれてしまった。養蜂家の父親とヨーロッパ各地を巡りながら、自分のピアノも持たないまだ粗削りな魅力の16歳の天才少年は、小説ならではの幻想的な存在だが、だからこそ本作に一気に引き込まれてしまった。無理だと分かっていても、こういう孫が欲しい。
それから、栄伝亜夜という20歳のコンテスタントは、天才少女としてすでに幼くしてコンサート活動をしていたのだが、師でありマネージャーでもあった母親の死で、音楽界から突然姿を消していた。彼女が再生をかけて、このコンクールに出場して、おもに観客席に居て他のコンテスタントの演奏を聴くことによって、予選期間に回復し成長していく様が感動的である。
浜松国際ピアノコンクールは、2018年秋に開催されるが、本作を読んで楽しんだ多くの読者が、予選から会場に並ぶのかもしれない。
私は、本書のはじめに掲載されている「第3次予選」の主人公たち4人各自の演奏曲リスト(演奏時間は1時間以内の規定)に従って、AmazonMusicによる嬉しい4つのプレイリスト(蜂蜜1~4と命名)を編集した。(なんと、この演奏会リスト編成のCDも発売されているようだ。)