遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

絶景本棚/本の雑誌編集部

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 絶景本棚     本の雑誌編集部、 中村規 (写真)

本好きの知り合いが結婚を機に新居を建て、蔵書を格納するための可動式書架の備わった書庫兼書斎を新妻に無断で作った。彼は、読書が好きなのか本集めが好きなのか、まあ両方好きだったのだろうが、多くの蔵書を抱えていて、いつかは書庫を作るぞと夢見ていたのだろう。

可動本棚が何台かあるのだから、彼の書庫はあまり狭くないはずで、そのために他のどの空間が犠牲になったのだろうか。その無断で作った書庫が新妻の逆鱗に触れたのかどうかは定かでないが、その夫婦は早くに離婚した。

さて、「本の雑誌」の巻頭に著名人の本棚が連載されていたそうで、それをまとめた本書「絶景本棚」が書籍化された。

著名人は34人で、30人くらいは知らないお方だったが、その本棚が実にお見事なものである。

まずみなさん当然に蔵書が多くて、それからその他のコレクション類も多く所蔵されている。蔵書やコレクションは、興味のない人間から見たらガラクタ同然のものなのだが、それらが整然とあるいは雑然と存在する様は、見るだけでもなかなか楽しい。それぞれ、図書館、博物館、図書室、書店、古書店、納戸、物置のような趣がある。

図書館、博物館のような本棚は、美しくてため息がでるが、古書店、納戸、物置のような趣がある棚のある書斎はなかなかに楽しい。計画性のない増築に増築を重ねた老舗旅館のように、いたるところに棚から漏れ出た床から平積みにされたおびただしい数の書籍や資料の類の山には、充実感と達成感が漂っている。

ところが、彼ら34人の書棚の書籍の背表紙には、あまり興味が湧かない。私は熱心な読書家ではなく何らかのコレクターでもなく、また、彼らの人となりをほとんど知らないからである。それにつけても、さまざまな書棚はきれいに手入れされた四季の花咲く花壇以上に興味深い存在ではある。

ところで、可動本棚の彼は、その後再婚を果たし今は幸せに暮らしているとの賀状が毎年届いている。

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