遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

#ブックレビュー

2024年1月~8月発表 文学賞 受賞者・受賞作品一覧表

2024年1月から8月までに発表された主な文学賞の受賞者・受賞作品を順不同で以下に示しました。今秋以降に発表される文学賞も多くありますが、2024年前半の受賞作のラインナップとなります。受賞作のみならず候補作となった作品も何冊か読みましたが、すべて…

一穂ミチの「ツミデミック」 さすがは直木賞でしたよ。

ツミデミック 一穂ミチ 光文社 直木賞受賞作「ツミデミック」を読みました。 「スモールワールズ」「パラソルでパラシュート」「光のとこにいてね」と読んできて、4作目になる一穂ミチ作品でした。 本作「ツミデミック」は、犯罪とパンデミックを合成した造…

朝比奈秋の「あなたの燃える左手で」   おすすめです!

あなたの燃える左手で 朝比奈 秋 河出書房新社 2023年に第51回泉鏡花文学賞と第45回野間文芸新人賞を受賞した朝比奈秋の「あなたの燃える左手で」を読みました。同じ2023年に三島由紀夫賞を受賞した「植物少女」についで、朝比奈作品を読むのは2作目となりま…

成瀬シリーズの第2弾「成瀬は信じた道をいく」を楽しく読みました

成瀬は信じた道をいく 宮島未奈 新潮社 「成瀬は天下を取りに行く」に続く宮島未奈による成瀬シリーズの第2弾「成瀬は信じた道をいく」を楽しく読みました。 「新たな語り部」である成瀬の近所に住む小学生や成瀬の父親など、新しい登場人物たちが成瀬あかり…

ペンの力は人を救う 第171回芥川賞 直木賞の受賞者発表

第171回の直木賞と芥川賞が発表されました。 直木賞の受賞が決まった一穂ミチは大阪市出身・在住の46歳。3回目の候補での受賞でした。《関西大学を卒業後、会社員として働きながら同人誌で作品を発表し、2007年「雪よ林檎の香のごとく」で小説家としてデビュ…

バスキアの絵のようにカラフルな「みどりいせき」(大田ステファニー歓人著)を読みました

みどりいせき 大田ステファニー歓人 集英社 第47回(2023年度)「すばる文学賞」(選考委員 奥泉光、金原ひとみ、川上未映子、岸本佐知子、堀江敏幸)第37回(2024年度)「三島由紀夫賞」(選考委員 川上未映子、高橋源一郎、多和田葉子、中村文則、松家仁之…

ハルノ宵子の「隆明だもの」で吉本家を疑似体験しました。

隆明だもの ハルノ宵子 晶文社 ハルノ宵子の「隆明だもの」を読了しました。 本書が、毎週日曜日に紹介している書評に取り上げられたのは、以下の4回。◆読売新聞: 1/21◆週刊ポスト「ポスト・ブック・レビュー」: 2/9・2/16 号◆週刊新潮「Bookwormの読書万…

2024年1月~5月発表 文学賞 受賞者・受賞作品一覧表

2024年1月から現在までに発表された主な文学賞の受賞者・受賞作品を順不同で以下に示しました。文学賞の発表時期は、春と秋に別れているようで、2024年前半の受賞作のラインナップとなります。 みなさまの読書の参考になりましたら幸いです。 ▼2024年(1月~…

小川哲の小説「君が手にするはずだった黄金について」を読みました

君が手にするはずだった黄金について 小川哲 (著) 新潮社 小川哲による直木賞受賞後初の小説「君が手にするはずだった黄金について」を読みました。 (あらすじ)才能に焦がれる作家が、自身を主人公に描くのは「承認欲求のなれの果て」。認められたくて、必死…

綿矢りさの「パッキパキ北京」で精神勝利法を学びました

パッキパキ北京 綿矢りさ 集英社 コロナ禍の北京で単身赴任中の夫から、一緒に暮らそうと乞われた菖蒲(アヤメ)。愛犬ペイペイを携えしぶしぶ中国に渡るが、「人生エンジョイ勢」を極める菖蒲、タダじゃ絶対に転ばない。過酷な隔離期間も難なくクリアし、現地…

万城目学の「八月の御所グラウンド」に胸が熱くなりました

八月の御所グラウンド 万城目学 文藝春秋 第170回(2023年下半期)の直木賞を受賞した、万城目学の「八月の御所グラウンド」を読みました。 本書には「十二月の都大路上下(カケ)ル」と「八月の御所グラウンド」というタイトルの二編が納められています。 …

幸福小説「成瀬は天下を取りにいく」を読みました

成瀬は天下を取りにいく 宮島未奈 新潮社 小川哲の「地図と拳」の主人公細川が、私的には2023年のもっとも魅力的な登場人物でしたが、2024年のそれは、宮島美奈著「成瀬は天下を取りにいく」の主人公成瀬あかりに決定しました、早くもこの時期にです。 本書…

2023年度 文学賞受賞「小説(中堅作家)・ノンフィクション等」全24作一覧

年明けから、当記事では2023年度の「新人文学賞」や「公募新人賞」の受賞作を紹介してきました。 https://toship-asobi.hatenablog.com/entry/2024/01/16/2128072023年の主な新人文学賞受賞作一覧https://toship-asobi.hatenablog.com/entry/2024/01/18/1357…

今週の書評本 全89冊(2024年 1/15~1/21 掲載分 週刊9誌&新聞3紙)

毎週日曜日は、この一週間(1/15~1/21)に週刊誌や新聞などの書評に取り上げられた旬の本を紹介しています。書評内容については各誌・HPなどをご覧ください。 今週の書評本 *表示凡例◆掲載された媒体: 発行号数 掲載冊数書籍タイトル 著者.編者 出版社 税…

新人作家の登竜門「公募新人賞」2023年受賞作一覧

昨日(1月17日)は第170回芥川賞・直木賞の発表があり、芥川賞は九段理江(33)の「東京都同情塔」に、直木賞は万城目学(47)の「八月の御所グラウンド」河﨑秋子(44)の「ともぐい」にそれぞれ決まりました。 九段理江は2度目のノミネートでしたが、すで…

広く読まれたい市川沙央の「ハンチバック」

ハンチバック 市川沙央 文藝春秋 今年最後に読了した本は、市川沙央の「ハンチバック」でした。 ハンチバック(せむし)の意味も知らずに読み始めたのですが、著者が筋力などが低下する筋疾患を持った女性だということは知っていました。私には、市川は実年…

アンニュイな小説家鈴木涼美の「グレイスレス」を読みました

グレイスレス 鈴木涼美 文藝春秋 鈴木涼美の小説「グレイスレス」を読みました。著者の作品は初読みでした。 主人公の聖月(みづき)はアダルトビデオ業界で女優のメイクをする仕事に従事しています。優美でない(グレイスレス)な現場で臨場感ある仕事場風…

乗代雄介の「それは誠」を読了。心温まる小説でした。

それは誠 乗代雄介 文藝春秋 第169回芥川賞候補作に選ばれた、いま最も期待を集める作家の最新中編小説。修学旅行で東京を訪れた高校生たちが、コースを外れた小さな冒険を試みる。その一日の、なにげない会話や出来事から、生の輝きが浮かび上がり、えも言…

月村了衛の「香港警察東京分室」を読みました

香港警察東京分室 月村了衛 小学館 第169回(2023年上半期)直木賞候補になった月村了衛の「香港警察東京分室」を読みました。 【あらすじ】日本と中国の警察が協力する―インターポールの仲介で締結された「継続的捜査協力に関する覚書」のもと警視庁に設立…

話題のノンフィクション「母という呪縛 娘という牢獄」を読みました

母という呪縛 娘という牢獄 齊藤彩 講談社 《深夜3時42分。母を殺した娘は、ツイッターに、「モンスターを倒した。これで一安心だ。」と投稿した。18文字の投稿は、その意味するところを誰にも悟られないまま、放置されていた。2018年3月10日、土曜日の昼下…

永井紗耶子の「木挽町のあだ討ち」は格調高い実事(じつごと)ミステリーでした

木挽町のあだ討ち 永井紗耶子 (著) 新潮社【あらすじ】ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、美しい若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。父親を殺めた下男を斬り、その血まみれの首を高くかかげた快挙はたくさんの人々から賞賛された。二年…

一穂ミチの「光のとこにいてね」を読みました

光のとこにいてね 一穂ミチ 文藝春秋 一穂ミチの「光のとこにいてね」を読みました。著者の作品を読むのはこれで3冊目で、いま本が売れる作家の仲間入りを果たしていると思しき著者ならではの面白い力作でした。 7歳で偶然出会った同い年の女性、結珠(ゆず…

猛暑に読む涼しいお薦め本はいかがでしょうか

ギャチュンカン北壁 通りすがりの方が、私の「読書メーター」のある本の感想にいいねをつけていかれました。 それは、沢木耕太郎の「凍(とう)」というノンフィクション本で、登山家の山野井泰史と妙子夫婦がギャチュンカンの北壁を登頂した記録です。 ギャ…

過去から日本の未来を問う小川哲の「地図と拳」をお薦めします

地図と拳 小川 哲 新潮社 1冊の本として私の生涯で最大ページ(640頁)の「地図と拳」を読了しました。 日露戦争から第二次大戦を挟んで、1899~1955年の約半世紀、未開発の満州(中国東北部)に真摯に生きた日本人と中国人とロシア人がいて、それら男女の半…

明治神宮の造営とその時代を描いた朝井まかての「落陽」を読みました◎

落陽 朝井 まかて (著) 祥伝社文庫 牧野富太郎の伝記小説、朝井まかての「ボタニカ」を読んでいて、巻末の祥伝社の本の紹介で見つけたのが「落陽」でした。 かねてから、明治神宮の杜に興味を持っていたのですが、その杜が作られるに至った経緯や、全国から…

コンテンポラリーダンスのような井戸川射子の「この世の喜びよ」を読みました

この世の喜びよ 井戸川射子 講談社 第168回芥川賞(2023年1月)受賞作、井戸川射子(いどがわ いこ)の「この世の喜びよ」を読みました。本書は、中編の受賞作のほかにごく短編の「マイホーム」と「キャンプ」が掲載されています。 主人公はスーパーの喪服売…

2023年上半期に読んだ本のうち良かったものを読了順にご紹介

2023年上半期に読んだ本のうち、良かったものを読了順に紹介します。 本が売れなくなって本を読まない人が多くなって久しい世の中ですが、それでも面白くて楽しくて素晴らしい本は続々とと出版されています。 私は比較的最近に出版されたものを図書館で借り…

朝比奈秋の「植物少女」には、圧倒的な生命の尊厳が塗りこめられていました

植物少女 朝比奈 秋 (著) 朝日新聞出版 今期の三島由紀夫賞を受賞した「植物少女」を読みました、どの頁も例外なく胸や目頭が熱くなる作品でした。 主人公の美桜(みお)を出産する時に、脳出血で植物状態になってしまった母、深雪。 美桜は、植物状態の深雪…

菊池寛と文藝春秋の物語「文豪、社長になる」を読みました

文豪、社長になる 門井慶喜 (著) 文藝春秋 書評で知った「文豪、社長になる 」というタイトルと表紙のイラストを見て、この小説のモチーフは菊池寛と彼が創立した文藝春秋のことだと容易に想像がつきました。 菊池は、現代では文豪と呼ばれるほど一般に人気…

直木賞受賞作 千早茜の「しろがねの葉」の間歩で心身ともに濡れる

しろがねの葉 千早 茜 新潮社 戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の…