遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

#ブックレビュー

万城目学の「八月の御所グラウンド」に胸が熱くなりました

八月の御所グラウンド 万城目学 文藝春秋 第170回(2023年下半期)の直木賞を受賞した、万城目学の「八月の御所グラウンド」を読みました。 本書には「十二月の都大路上下(カケ)ル」と「八月の御所グラウンド」というタイトルの二編が納められています。 …

幸福小説「成瀬は天下を取りにいく」を読みました

成瀬は天下を取りにいく 宮島未奈 新潮社 小川哲の「地図と拳」の主人公細川が、私的には2023年のもっとも魅力的な登場人物でしたが、2024年のそれは、宮島美奈著「成瀬は天下を取りにいく」の主人公成瀬あかりに決定しました、早くもこの時期にです。 本書…

2023年度 文学賞受賞「小説(中堅作家)・ノンフィクション等」全24作一覧

年明けから、当記事では2023年度の「新人文学賞」や「公募新人賞」の受賞作を紹介してきました。 https://toship-asobi.hatenablog.com/entry/2024/01/16/2128072023年の主な新人文学賞受賞作一覧https://toship-asobi.hatenablog.com/entry/2024/01/18/1357…

今週の書評本 全89冊(2024年 1/15~1/21 掲載分 週刊9誌&新聞3紙)

毎週日曜日は、この一週間(1/15~1/21)に週刊誌や新聞などの書評に取り上げられた旬の本を紹介しています。書評内容については各誌・HPなどをご覧ください。 今週の書評本 *表示凡例◆掲載された媒体: 発行号数 掲載冊数書籍タイトル 著者.編者 出版社 税…

新人作家の登竜門「公募新人賞」2023年受賞作一覧

昨日(1月17日)は第170回芥川賞・直木賞の発表があり、芥川賞は九段理江(33)の「東京都同情塔」に、直木賞は万城目学(47)の「八月の御所グラウンド」河﨑秋子(44)の「ともぐい」にそれぞれ決まりました。 九段理江は2度目のノミネートでしたが、すで…

広く読まれたい市川沙央の「ハンチバック」

ハンチバック 市川沙央 文藝春秋 今年最後に読了した本は、市川沙央の「ハンチバック」でした。 ハンチバック(せむし)の意味も知らずに読み始めたのですが、著者が筋力などが低下する筋疾患を持った女性だということは知っていました。私には、市川は実年…

アンニュイな小説家鈴木涼美の「グレイスレス」を読みました

グレイスレス 鈴木涼美 文藝春秋 鈴木涼美の小説「グレイスレス」を読みました。著者の作品は初読みでした。 主人公の聖月(みづき)はアダルトビデオ業界で女優のメイクをする仕事に従事しています。優美でない(グレイスレス)な現場で臨場感ある仕事場風…

乗代雄介の「それは誠」を読了。心温まる小説でした。

それは誠 乗代雄介 文藝春秋 第169回芥川賞候補作に選ばれた、いま最も期待を集める作家の最新中編小説。修学旅行で東京を訪れた高校生たちが、コースを外れた小さな冒険を試みる。その一日の、なにげない会話や出来事から、生の輝きが浮かび上がり、えも言…

月村了衛の「香港警察東京分室」を読みました

香港警察東京分室 月村了衛 小学館 第169回(2023年上半期)直木賞候補になった月村了衛の「香港警察東京分室」を読みました。 【あらすじ】日本と中国の警察が協力する―インターポールの仲介で締結された「継続的捜査協力に関する覚書」のもと警視庁に設立…

話題のノンフィクション「母という呪縛 娘という牢獄」を読みました

母という呪縛 娘という牢獄 齊藤彩 講談社 《深夜3時42分。母を殺した娘は、ツイッターに、「モンスターを倒した。これで一安心だ。」と投稿した。18文字の投稿は、その意味するところを誰にも悟られないまま、放置されていた。2018年3月10日、土曜日の昼下…

永井紗耶子の「木挽町のあだ討ち」は格調高い実事(じつごと)ミステリーでした

木挽町のあだ討ち 永井紗耶子 (著) 新潮社【あらすじ】ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、美しい若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。父親を殺めた下男を斬り、その血まみれの首を高くかかげた快挙はたくさんの人々から賞賛された。二年…

一穂ミチの「光のとこにいてね」を読みました

光のとこにいてね 一穂ミチ 文藝春秋 一穂ミチの「光のとこにいてね」を読みました。著者の作品を読むのはこれで3冊目で、いま本が売れる作家の仲間入りを果たしていると思しき著者ならではの面白い力作でした。 7歳で偶然出会った同い年の女性、結珠(ゆず…

猛暑に読む涼しいお薦め本はいかがでしょうか

ギャチュンカン北壁 通りすがりの方が、私の「読書メーター」のある本の感想にいいねをつけていかれました。 それは、沢木耕太郎の「凍(とう)」というノンフィクション本で、登山家の山野井泰史と妙子夫婦がギャチュンカンの北壁を登頂した記録です。 ギャ…

過去から日本の未来を問う小川哲の「地図と拳」をお薦めします

地図と拳 小川 哲 新潮社 1冊の本として私の生涯で最大ページ(640頁)の「地図と拳」を読了しました。 日露戦争から第二次大戦を挟んで、1899~1955年の約半世紀、未開発の満州(中国東北部)に真摯に生きた日本人と中国人とロシア人がいて、それら男女の半…

明治神宮の造営とその時代を描いた朝井まかての「落陽」を読みました◎

落陽 朝井 まかて (著) 祥伝社文庫 牧野富太郎の伝記小説、朝井まかての「ボタニカ」を読んでいて、巻末の祥伝社の本の紹介で見つけたのが「落陽」でした。 かねてから、明治神宮の杜に興味を持っていたのですが、その杜が作られるに至った経緯や、全国から…

コンテンポラリーダンスのような井戸川射子の「この世の喜びよ」を読みました

この世の喜びよ 井戸川射子 講談社 第168回芥川賞(2023年1月)受賞作、井戸川射子(いどがわ いこ)の「この世の喜びよ」を読みました。本書は、中編の受賞作のほかにごく短編の「マイホーム」と「キャンプ」が掲載されています。 主人公はスーパーの喪服売…

2023年上半期に読んだ本のうち良かったものを読了順にご紹介

2023年上半期に読んだ本のうち、良かったものを読了順に紹介します。 本が売れなくなって本を読まない人が多くなって久しい世の中ですが、それでも面白くて楽しくて素晴らしい本は続々とと出版されています。 私は比較的最近に出版されたものを図書館で借り…

朝比奈秋の「植物少女」には、圧倒的な生命の尊厳が塗りこめられていました

植物少女 朝比奈 秋 (著) 朝日新聞出版 今期の三島由紀夫賞を受賞した「植物少女」を読みました、どの頁も例外なく胸や目頭が熱くなる作品でした。 主人公の美桜(みお)を出産する時に、脳出血で植物状態になってしまった母、深雪。 美桜は、植物状態の深雪…

菊池寛と文藝春秋の物語「文豪、社長になる」を読みました

文豪、社長になる 門井慶喜 (著) 文藝春秋 書評で知った「文豪、社長になる 」というタイトルと表紙のイラストを見て、この小説のモチーフは菊池寛と彼が創立した文藝春秋のことだと容易に想像がつきました。 菊池は、現代では文豪と呼ばれるほど一般に人気…

直木賞受賞作 千早茜の「しろがねの葉」の間歩で心身ともに濡れる

しろがねの葉 千早 茜 新潮社 戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の…

年森瑛の厳しくて鮮やかな感性「N/A(エヌエー)」を読了

N/A 年森 瑛 (著) 文藝春秋 年森瑛(としもりあきら)の「N/A(エヌエー)」を読了。 もう花は散ったのですが、冷たい雨が続いてウォーキングも出来ないなか、行く春にこの本で楽しむことができました。 女子高のクラスメートから「松井様」と呼ばれる王子様…

直木賞作家小川哲の「君のクイズ」を読みました!

君のクイズ 小川 哲 (著) 朝日新聞出版 今年初め「地図と拳」で直木賞を受賞した小川哲の受賞前の小説「君のクイズ」を読了(以下、ネタバレなし)。 とあるクイズ番組に出演した三島はあと一歩のところで優勝賞金1千万円を手にできなかった。三島を制して優…

「らんまん」の主人公モデル牧野富太郎の生涯「ボタニカ」を読みました

ボタニカ 朝井まかて 祥伝社 朝ドラ「らんまん」の主人公のモデルは高知生まれの植物学者牧野富太郎(1862年・文久2年- 1957年・昭和32年)。 私はガーデニングを始めて20年くらいになるが、さまざまな植物図鑑などにその名を残す牧野富太郎をその頃から知る…

平野啓一郎著「ある男」を読みました(日本アカデミー賞受賞記念・再掲載)

平野啓一郎の小説「ある男」のご紹介。 弁護士の城戸は、宮崎に住むかつての依頼人からまた仕事を頼まれる。 依頼人は里枝という女性で、城戸はこの女性の離婚時のトラブルを解決していた。今回の依頼は、里枝が再婚し事故で亡くなった夫「大祐」についての…

ピエール・ルメートルの峻烈なデビュー作「悲しみのイレーヌ」を読みました。

悲しみのイレーヌ ピエール・ルメートル 橘明美 (翻訳) 文春文庫 日本でも大ヒットしたベストセラー小説「その女アレックス」の前作にあたる、ピエール・ルメートルのデビュー作「悲しみのイレーヌ」を読みました。 このシリーズは、パリ警視庁のカミーユ・…

2022年に読んだおすすめ本ベスト6

◆2022年に読んだおすすめ本ベスト6 〇フィクション(読了順)「ザリガニの鳴くところ」ディーリア・オーエンズ「正欲」朝井リョウ「ミトンとふびん」吉本ばなな「同志少女よ、敵を撃て」 逢坂冬馬「ミシンと金魚」 永井みみ「おいしいごはんが食べられます…

史上最も悲惨なヒグマによる事件「慟哭の谷」を読みました

慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件 木村盛武 (著) 文春文庫 「慟哭の谷」は、史上最悪のヒグマによる惨劇のノンフィクション。 その事件のあらましと本書の内容紹介は以下のとおり。《1915年12月、北海道苫前村の開拓地に突如現れた巨大なヒ…

溢れる少女たちの自由で奔放で崇高な精神「同志少女よ、敵を撃て」

同志少女よ、敵を撃て 逢坂 冬馬 (著) 早川書房 第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞や2022年本屋大賞1位作品となった「同志少女よ、敵を撃て」のご紹介。 第二次世界大戦で、ナチ・ドイツに最後の鉄槌を下したのがソビエトだったが、ソ連の赤軍には女性兵…

ポリアモリーを知っていますか? 小説「きみだからさびしい」

きみだからさびしい 大前 粟生 (著) 文藝春秋 大前粟生(おおまえ あお)著、小説「きみだからさびしい」を読みました。 4月中に週刊文春、女性セブン、朝日新聞の書評欄に取り上げられていたので(書評の内容は全く読まなかったのですが)、本書に興味を持…

吉本ばなな「ミトンとふびん」 どれもがいい感じの6篇の短編集でした

ミトンとふびん 吉本ばなな 新潮社 きょうは吉本ばななの新刊「ミトンとふびん」のご紹介(ネタバレなし)。 わが家の本棚には彼女の著書が何冊か在るのに、なんと吉本ばなな初読みだった。 彼女の鮮烈なデビュー当時、妻が買って読んでいた初期の作品は、な…