遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

コンビニ人間/村田 沙耶香

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コンビニ人間     村田 沙耶香     (文春文庫) 

2016年の第155回芥川賞受賞作、村田沙耶香の「コンビニ人間」は、この夏すでに文庫が発売されていた。

村田沙耶香作品は初読み。彼女は、群像新人文学賞優秀賞(2003年)野間文芸新人賞(2009年)三島由紀夫賞(2013年)を受賞していたが、2016年の芥川賞受賞当時には、まだコンビニでバイト店員をしていたそうだ。

本書の主人公は、36歳コンビニバイト歴18年の独身女、古倉恵子。コンビニの店員の必要とされるスキルや心構えなどが面白くて読み進んでいたが、やがてこの古倉恵子がとても面白くなっていった。

そんな時、恵子と同世代の白羽という男が同じ店でバイトとして働き始める。白羽と恵子は世間から打ち捨てられたような境遇の男女だったが、それなのにいつしか恵子は白羽に面と向かってその生き方について侮辱を受ける。恵子は、妹や友人たちも自分のことを普通の人間と見ていないことに気付くのだった。

本書はベストセラーとなった。

読書メーターの「読んだ本」ランキングではいまだに最上位で、単行本と文庫本を合わせた読了数は3万6千ととてつもない。おそらく中学生でも読める芥川賞作品で、表現されていることもすんなり理解できる小説だと思われる。読者は、若い人が多いのだろうと思う。

普通に暮らしている若者から見たら、就職も結婚も恋愛もできない36歳の恵子(白羽も同じだが)は、もう終わった人なのではないか。

読者は主人公の恵子や白羽のような人間に、作品を通してどのように接したのだろうか、ムラ社会からのはぐれ物のような主人公たちに共感したのか嫌悪感を覚えたのか、とても興味深いところである。

恵子と白羽の対話や物腰や振舞いは現実離れした強烈なものだが、争いは起こらない。こんな不思議は、これが文学だから起こりうると読者が思っているのだとしたら、こんなに読まれる小説にはならなかったかもしれない。

私は普通に暮らしてきた身の上の初老の男だが、心根は主人公たちにとても近いと感じながら読了した。自分を普通だと思われようとしていることが面倒くさくて、疲れることだらけだが、いなしたり・まぎらわせたり・逃げたりしながらカッコ悪く楽しく暮らしてきた。いまはもうあまり疲れなくなった、その分なんだかつまらなくなったような気もしている。