遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

駒音高く/佐川光晴

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駒音高く    佐川 光晴 (著)       実業之日本社

月曜日に会ったランチ仲間と、例によって今読んでる本の話になって、また私は佐川光晴の著書を推薦しておいた。

その推薦図書は「日の出」「牛を屠る」「駒音高く」だった。それぞれの本の私の口頭レビューは5秒くらいと短くしたが、仲間たちは読んでみようかなという雰囲気だった。

「駒音高く」という署名と表紙の絵でお分かりになるだろうが、佐川光晴の新作は将棋の世界を描いた小説である。

【目 次】
第一話 大阪のわたし
第二話 初めてのライバル
第三話 それでも、将棋が好きだ
第四話 娘のしあわせ
第五話 光速の寄せ
第六話 敗着さん
第七話 最後の一手

上の七話からなる短編集で、七話はそれぞれ登場人物が絶妙に重なるところもありプロとプロの卵の棋士の世界が描かれている。

すべてフィクションであるが、千駄ヶ谷と福島(大阪市)の将棋会館羽生善治や谷川浩二や藤井聡太など数名の棋士は実名で登場する。

プロの棋士は、将棋連盟の「研修会」というカテゴリーを経て「奨励会」に6級で入会し三段リーグを経て、年間4人誕生する。そのシステムももちろんそのまま本書に使われている。

本書の短編の七人の主人公は老若男女で構成され、それは研修会に入る前の小学生から、奨励会で激流に揉まれているプロの卵や、プロへの道を絶たれた中年の将棋担当記者や、引退寸前の初老の名棋士などといったラインナップである。

将棋にさほど詳しくない読者の代表として、金と銀の駒の動きがまだはっきりしない妻が読んだが、すらすらと面白く読めたという。本書について、それ以上のレビューは不必要かもしれない。

将棋の世界に身を置いてはいるが、主人公たちはあまりどろどろとしていなくて、実力がものをいうシンプルな世界に息づく生身の人間が描かれている。悩んだり研鑽したり精進する姿が爽やかで、佐川光晴的世界がそこにある。