遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

屍人荘の殺人/今村昌弘

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屍人荘の殺人  今村 昌弘  (著)    東京創元社

若いころからミステリ好きで、初期の頃は犯人捜しが主題の本格ミステリ小説を楽しんでいた。

エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」にはじまり、コナン・ドイルの「ホームズシリーズ」やアガサ・クリスティーの「ポワロシリーズ」、エラリー・クイーンの歴史的な代表作「Yの悲劇」を抱く「悲劇」シリーズなどの本格ミステリで楽しんでいた。

今回は、本邦の本格ミステリ「屍人荘の殺人」のご紹介。

著者の今村昌弘(33)は、本作で2017年デビューし、「このミステリーがすごい!2018」第1位、 「2018 週刊文春ミステリーベスト10」第1位、「2018 本格ミステリ・ベスト10」第1位、第15回本屋大賞第3位、第18回本格ミステリ大賞などを受賞した。

【「BOOK」データベースによる概要】
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け―。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった…!!究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?!奇想と本格ミステリが見事に融合する選考委員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作!

この梗概をあらかじめ読んでいたら、本作を手に取らなかったかもしれない。翻訳ミステリが好きで、いまでは本格ミステリにいささか飽きてきている身にとって、本邦の本格ミステリは辛気臭い存在なのだ。

そして、「想像しえなかった事態に遭遇し」た主人公たちに本書のはじめの方で出会って、本作はホラーファンタジーの様相を呈してきて、苦手な知人に電車の席で隣り合ったような気持ちになっていた。それでも粘り強く途中下車することなく、最終駅まで席を立たなかった。

登場人物は、大学生を中心とした若者たちで、紫湛荘(しじんそう)というペンション内の数日間の連続殺人事件の犯人探しがメインストリームを形成する。本書のタイトルの屍人荘(しじんそう)は、この紫湛荘をもじったもの。

本書を、私がミステリを読み始めた50年前に読んでいたら、本格ミステリだし登場人物たちも若いし、いまより5倍くらい楽しめたと思う。とはいっても、ライトノベルズのような軽さはみじんもなく、あくまでも本格的な趣はきちんと装備されている。

シャーロック・ホームズの語り手は、ホームズの相棒のワトソンだが、本書のワトソン役は大学生に入学したばかりの葉村譲で、彼の一人称で事件が語られる。ホームズ役は、同じ大学のミステリ愛好会の先輩明智恭介と剣崎比留子。

この主人公三人の人物造形はあざやかで、彼らが本作終了後も無事なら、彼らを主人公としたシリーズ化にしてもいいように思う。シャーロック・ホームズなど、翻訳の名作を本格ミステリの入門書とするのが王道だろうが、本作であっても無問題。ぜひ若人に読んでもらいたい。