遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ファーストラヴ/島本理生

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ファーストラヴ  島本 理生  (著)  文藝春秋

女子大生聖山環菜(ひじりやまかんな)が父親殺人で逮捕され、裁判が始まろうとしていた。

臨床心理士の真壁由紀は、この事件に関するノンフィクションの執筆を依頼され、被告の弁護人となった義弟の庵野迦葉(あんのかしょう)とともに、環菜や周辺の人々への面談を重ねていく。

事件に違和感を持った由紀は、殺された父親がどんな人物で、なぜ娘に殺されなければならなかったかを探っていくうち、父と娘の環菜の関係が次第に鮮明になっていく。

そして、もう一つのストーリーが、義弟の迦葉と由紀の現在と過去。二人が協力して殺人事件の真相を究明していく過程で読者が感じるぎこちなさの理由も、少しずつベールがはがれるようにはっきりしてくる。

主人公が女性の臨床心理士だということで、面談する人たちへの距離感が絶妙で、強引に捜査を進める乱暴な男性の探偵に比べると、ページ数はかなり使ってしまうことになるが、その分現実味があり納得感がある。いま風で悪くない流れだと思う。

「娘による父親殺人」という筋書きで、下世話な私は父親による娘への性的虐待が裏にあると最初に感じ取った。私の予感は当たっていたが、本書で扱われた性的虐待の「程度」「性質」においてはものの見事に外れていた。

私には娘もいるし、かつての同僚や部下には女性もいたが、本書を読み進めるうちに性的虐待で彼女たちを傷つけていなかっただろうかと、心配になっていた。

臨床心理士由紀の夫で、弁護士迦葉の兄でもある、真壁我聞という人物がありえないほど澄んだ心の持ち主で、この小説で唯一リアリティを感じなかった。まあ、一人くらいこういう人物を登場させるのも悪くはない、悪くはない。

本作で島本理生(りお)は、第159回(2018年上半期)の直木賞を受賞した。