2019年の本屋大賞に輝いた瀬尾まいこの「そして、バトンは渡された」を読了。
本書の瀬尾まいこのプロフィールを読むと大阪生まれの45歳とある。瀬尾は2001年に「坊ちゃん文学大賞」を受賞してデビュー。その後、2011年まで中学校で国語の教師をして、作家と二足のわらじを履いていたそうだ。
本作の主人公は優子という女子高生で、彼女の一人称で語られる小説である。
優子は、十七歳になるまでに4回苗字が変わり、3人の父親と2人の母親に育てられるてきた。なぜそんなことになるのか、物語を読めばなるほどと納得する。両親がそろっていた時もあれば、そうでない期間もあって、優子は親たちによって「バトン」のように渡されてきた。
しかし、苗字が変わり親が変わっても、優子はNHKの朝ドラの主人公のように健全で影のない主人公で物語を生きるのである。
大賞を受賞したからなのか、本作はベストセラーになっているようだ。本が売れなくなって久しいし、本屋もなくなっているし、「本屋大賞」はベストセラーを生む装置の一つかもしれない。しかし、「受賞作」だというだけで本が売れるという単純な話ではないだろう。
私は図書館で本書を借りたが、わが図書館には本書は20冊あって、なんと現在の予約数は550件となっている。長蛇の列なのだ。
「そして、バトンは渡された」は、同じ大阪生まれの40代の三国美千子が書いた「いかれころ」のような個性的で強烈な人物は登場しないし、読み手を「どこへ連れて行くのだろう?」と何度も思うほど、つかみどころのないさらっとした質感を持っている。
作家は、かつては教え子だった中学生や若い読み手に向けてこれを書いたのだと思う。中学生が読んだなら、家族や親子のことを考える初めてのテキストにもなるだろう。
さらっとした質感なので引っ掛かりがなく、テーマを持った登場人物たちがすっと立ち上がってくる。読み手のテーマの受け取り方は千差万別だろうが、それが素晴らしいことなんだと思う。
65年も生きていると、最後の数ページで涙が出てくる。ありがたいことである。
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