遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

第162回 直木賞受賞作 川越宗一の「熱源」を読みました!

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 熱源     川越 宗一 (著) 文芸春秋

本作(第162回 直木賞受賞)は、半世紀にわたる(日露戦争の前から終戦直後まで)の樺太とロシアと北海道と東京を舞台にした史実に基づいた大河小説。

1905年と1945年の2度の樺太の戦いや帝政ロシアの滅亡とロシア革命など、領土をめぐる歴史に翻弄された樺太アイヌ人とロシアのポーランド人(樺太の流人)の実在の2人が主人公。

金田一京助大隈重信や白瀬南極探検隊長など誰もが知る著名人や、無名の市井の人たちなど主人公2人を取り巻く人たちが少なからず登場し、言葉を持ち思考を深めおもに樺太で日々を暮らす。

と、ここまで並べた小説の素材は決して楽しそうじゃないが、本作が直木賞を受賞したということ以外はまったく予備知識なしで読み始めたので、恥ずかしながら樺太アイヌの歴史をよく知らない身としてはとても新鮮な気持ちでページを繰ることができた。

半世紀以上も前になるが、小学校の講堂で観た映画「コタンの口笛」は、アイヌの少年が日本の子どもたちに差別される映画だったと記憶しているが、主人公の少年がナイフで自分の指を切りイジメる少年たちに「これと同じ赤い血がお前たちにも流れているだろう」と迫る場面があり、そのシーンだけはいまに至っても忘れることができないでいる。それが、私が差別を意識した人生で最初のシーンだったと回顧できるが、そのアイヌの少年のことを本作でふと思い出したりもした。

しかし、本作のメインストリームは差別そのものではなく、逆境のなか強く生きようとする人間たちのドラマである。

著者川越宗一は自身2作目の小説作品で直木賞に輝いたのだが、巻末の多くの参考文献を読み繋いで再構築してフィクションとして仕立て上げた技量に感心する。

どこへ行けなくても何も達成できなくても、この物語に入り込んでゆらゆらしていれば幸せになれるのだった。人が熱くなれるみなもと(熱源?)を感じることもできる。