遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

小説「監禁面接」/ピエール・ルメートル

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監禁面接  ピエール・ルメートル   橘 明美 (訳)  文藝春秋

ベストセラー「その女アレックス」のピエール・ルメートルの新作「監禁面接」のご紹介。

主人公アランは、4年前にリストラにより人事部長の職を解かれた失業者。パリでアルバイトをしながら、元の仕事に再就職したくて就活中なのだが、ある日ついに、一流企業の人事副部長の最終面接にまでこぎつけた。

アランのファミリーは、妻と娘2人という構成で、最終面接まであっさりと駒を進めたあたりで、読者はこのファミリーへの思い入れが強くなるはず。アランが復職し、ファミリーに幸せな日々が戻ることを祈り始めるのだ。

しかし、その時点で残りのページはまだ4分の3以上残っているのである。

ストーリーは全3部に分かれていて、第1部の語りがアランだったのに、第2部では別人物に代わるころには、私はこのアランのファミリーへの思い入れをいったん手放すことにした。

ペーパー試験をパスしたアランがたどり着いた最終面接は、想像を絶する現実離れした仕掛けが仕組まれていた。しかし、彼は自身のキャリアが十分ものをいうことを自覚していて、さらにその対策もしっかり準備していた。

にもかかわらず、アランと彼の家族はその「面接劇場」を観た読者に見放されることになる。彼らに思い入れを持ったままにしていると、読み手の気持ちが保てなくなるからだ。

しかし、そのあとは読者が彼の家族とともにジェットコースターに乗せられ、次々に翻弄されることになる。

読み進めていて、スティーグ・ラーソンの「ミレニアム」シリーズを連想するようなところもあって、面白い映画を観ているように愉しめた。ルメートルは、抜け目なく映画化も意識して書いたのだろうが、よくもこんなに愉しい一気読みさせる巧みなストーリーを思いつくなあと嬉しくなる。

ルメートルの世界はテーマパークのような多様性があるが、本書の結末は、フランス映画のようにゆったりと奥深く、パリの市章の意味する「たゆたえども沈まず」を表象するのである。