平場の月 朝倉かすみ 光文社
病院に精密検査に来た男と、その病院の売店のレジでパートをしていた女が偶然出会う。ふたりは地元中学の同級生の50歳の中年男(青砥)と女(須藤)で、35年ぶりに偶然出会ったところから物語が始まる。
二人の関係は、中学3年の時に青砥が須藤に告白したが断られたという間柄。その男女の再会物語だった。
主人公の中年男女は双方ともバツイチで、そのほかにもいろいろ過去のある二人。近い距離に住みながら長らく会うこともなかった二人。双方とも、老いを前にして平場で一人暮らしをしていて、偶然の出会いを境にして35年ぶりの愛がくすぶりはじめるのだった。
青砥と須藤は、自分たちの病気や老後、親の介護、同級生や身内や職場の同僚との関係性などと折り合いをつけながら、愛を育んでいこうとする。
女性作家が書いているのだが、須藤は作者のほぼ等身大なのだろうが、須藤に対峙する青砥の細かな心理描写もよく描けていて見事だった。
人生はワインボトルの中身のようで、わずかな「ゆらぎ」で上澄みは澱と混ざってしまうこともあり、繰り返される「ゆらぎ」は男女の関係や人生や社会と似ていて、それらが本書にも哀しく垣間見える。
この少し貧しくて孤独な平場の中年男女の恋愛物語を若い人が読めば、ダサいと感じるかもしれない。しかし、余計なものが沈殿している上澄み液が主成分のような中年男女そのものは魅力的なのだった。
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