遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ハルノ宵子の「隆明だもの」で吉本家を疑似体験しました。

隆明だもの   ハルノ宵子  晶文社

 

ハルノ宵子の「隆明だもの」を読了しました。

本書が、毎週日曜日に紹介している書評に取り上げられたのは、以下の4回。
◆読売新聞: 1/21
週刊ポスト「ポスト・ブック・レビュー」: 2/9・2/16 号
週刊新潮「Bookwormの読書万巻」: 2/15 号
朝日新聞: 3/9

ほかには、下の新聞書評で紹介されたようです。
毎日新聞(2024年1月13日)書評(鹿島茂
HONZ(2024年1月17日)書評(首藤淳哉)
西日本新聞(2024年1月21日)書評(ひとやすみ書店・城下康明)
東京新聞(2024年1月27日)書評
毎日新聞(2024年1月28日)〈文化の森〉著者インタビュー

本書の多くの書評については全く読んでいませんが、著者のハルノ宵子(漫画家)が吉本隆明の長女だとその際に初めて知りました。当然に彼女の妹は、「ばなな」です。姉妹の母、隆明の妻吉本和子は結婚で小説家を封印され後に俳人となった和子です。

著者の本名は、本書で知ったのですが吉本多子。多子と書いて「さわこ」と読むのだそうで、とてもいい名前だと気に入りました。ちなみに7歳下の吉本ばななの本名は真秀子(まほこ)で、これも本書で知ったのですがこれまた良い名前だと思いました。

本書は、この吉本家の年代記が綴られたエッセイで、短いエピソードが30編あまり綴られていて、姉妹の対談ページも多く取られていて楽しい読み物になっています。

現在70歳の私、実は隆明の本は1冊も読んでいなくて、ばななの本も誰が読んだか自宅の本棚には数冊ありますがどれも読んだことが無くて、2年前に「ミトンとふびん」を初めて読んだきりです。

全共闘世代は隆明の本(思想)がバイブルで、隆明を神のような存在だと思っている人がワンサカいて、私たちシラケ世代は名前は知っていても彼は神ではないような気がします。

隆明が息を引き取る最期まで同居していた長女が描いた吉本家は、家長が「有名税」を払っているので多くの人が出入りするカオスな家庭であったことが手に取るようにわかります。有名な割に収入にこだわりのない家長なので、経済的には想像以上に大変だったでしょうが、出来の良い娘たちはそういう家庭環境で育つものなのでしょう。

吉本家の日常から、生身の人間であり怪獣のようでもある隆明が立ち上がってきますが、母和子の昭和的ではないあまり我慢を自分に強いない妻と母としての姿を、長女の筆がためらいなく描写します。

ハルノ宵子と吉本ばななの姉妹対談も、個人的な思い出話を超える興味と迫力を含んでいます。すでに両親は亡くなっていますが、そうでなくてはこういう対談は成立しないのでした。

娘たちは、それぞれの任務分担で父母という大変な怪獣を飼っていた、そんな来し方だったようです。

他人の言うことなんか聞かない、だって隆明だもの」が、本書の正式タイトルなのかもしれません。

 

吉本家は、薄氷を踏む
ような〝家族〞だった。

戦後思想界の巨人と呼ばれる、父・吉本隆明
小説家の妹・吉本ばなな
そして俳人であった母・吉本和子――
いったい4人はどんな家族だったのか。
長女・ハルノ宵子が、父とのエピソードを軸に、
家族のこと、父と関わりのあった人たちのことなどを思い出すかぎり綴る。

吉本隆明全集』の月報で大好評の連載を、加筆・修正のうえ単行本化。
吉本ばななとの初の姉妹対談(語りおろし)なども収録する。