遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

月村了衛の「香港警察東京分室」を読みました

香港警察東京分室  月村了衛  小学館

第169回(2023年上半期)直木賞候補になった月村了衛の「香港警察東京分室」を読みました。

あらすじ
日本と中国の警察が協力する―インターポールの仲介で締結された「継続的捜査協力に関する覚書」のもと警視庁に設立されたのが「特殊共助係」。通称「香港警察東京分室」。
初の共助事案は、香港でデモを扇動し多数の死者を出した上、助手を殺害し日本に逃亡したキャサリン・ユー元教授を逮捕すること。元教授の足跡を追い密輸業者のアジトに潜入すると、そこへ香港系の犯罪グループ・黒指安が襲撃してくる。対立グループとの抗争に巻き込まれつつもユー元教授の捜索を進める分室メンバー。やがて新たな謎が湧き上がる。

香港警察からの5人と日本警察の5人で特別編成された東京分室の10人。登場人物イランはあるものの、それぞれの名前が覚えにくいうえ男女の区別がつきにくいのですが、それぞれの来し方や個性がユニークで会話の基となる言葉選びもユニークで楽しめます。

もっとノワール(暗黒小説)かと思っていたら、文武両道で硬軟取り混ぜて優秀な女性捜査官(香港2人・日本3人)によるパリテ編成(半数が女性)が黄金比となっていて、日中の女性陣がシナリオ(会話・筋立て・人物設定)にいろいろ幅を持たせていてエンタメ要素がたっぷりです。

筆者は警察小説が専門分野のようで、とりわけハードボイルドな場面がとても緊迫感があって痛快。分室メンバーは、男女の遜色なくいろいろ仕事ができます。

香港に民主はないが自由はある」というとても深遠なキーワードを基調に、東京を舞台にした面白い警察小説になっています。日本に民主や自由はあるのだろうかと、考えさせられもします。

この分室にはまだ続きがあり、シリーズ化されそうな予感がしますし。映画やドラマにしてほしいと著者は希望し、読者も思うところかもしれません。