遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

炭水化物が人類を滅ぼす/夏井睦

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炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学  夏井 睦 (光文社新書)

【内容】自分の身体で糖質制限を試し、効果や危険のなさを確かめた著者は、糖尿病の糖質制限治療の第一人者である江部康二氏と親交を深めながら、栄養素としての糖質の性質や、カロリーという概念やその算出法のいいかげんさ、そしてブドウ糖からみえてくる生命の諸相や進化などについて独自の考察や研究を開始。本書では、糖質からみた農耕の起源についても新説を展開、穀物栽培により繁栄への道を得た人類が、穀物により滅亡への道をたどりつつあることも指摘する。著者のHPに日々寄せられる、多くの糖質セイゲニストからの体験談の一端も紹介。糖質を切り口に様々なことを考える。


週明け月曜日のランチ。胃が重くて負担の少ない、五目せいろ(ほとんどご飯)と温かいきつねそばセットを食べる。そういうランチを食べると、夕方に気が遠くなるくらいお腹が減ることがよくある。

「ああ、やっぱり炭水化物は消化が良いから、こんなに腹が減るんだ」と今まで思っていた。ところが本書によると、炭水化物は消化が悪いという。肉などのたんぱく質は、胃では瞬く間に消化されるのに比べて、炭水化物は長く胃にとどまっているという。

となると、炭水化物ばかり食べたランチの後の空腹感はどこから来るのだろう。

答えは以下のとおりである。
炭水化物を食べると血糖値が急激に上がる。そして、その反動で、血糖値は急激に下がる。その際に脳が空腹感信号を発するのである。「甘いものを補充しなさい」とまさに甘いささやき信号を発するのである。そのささやきに乗せられてしまうと、人はチョコレートを食べて太ってしまうのである。

私は何のためにベジ・ファースト(食事を野菜から食べ始める)をやってきたのかと反省してしまった。
食事のさいに、野菜などの食物繊維を先に摂り、ご飯など炭水化物を食事の最後に食べることにより、血糖値の急激な上昇を抑え、老化や肥満を予防することができる。だから、炭水化物セットのようなランチは血糖値をグンとあげてしまっていたのだった。

本書は、前半「はじめに」から「IV 糖質セイゲニスト、かく語りき」くらいまで読むと、炭水化物(糖質)を摂ることを止めることによる身体への効能が解るようになっている。

甘いもの=糖質は、酒・たばこ・ドラッグ・ギャンブルなど依存症の基になるものたちと同質。つまり摂らなくても死にはしないと、夏井陸は言う。摂れば毒になるものと同質で、しかもやめられなくなるのである。

炭水化物を全く摂らないことは無理だろうから、ベジ・ファーストと適度な糖質制限をおすすめする。食事の「量」制限ではなく「質」の見直しによるダイエットが容易だと思われる。

本書後半は、「哺乳類、そして人類は何を食べてきたか」という、有史以前からの生物学のお話。多分こちらが本書のテーマなのかと思うが、退屈かもしれない。高校の生物でこんなこと習わなかった(はずだ)から、私は面白く読んだ。


【目次】

はじめに

I やってみてわかった糖質制限の威力

II 糖質制限の基礎知識

III 糖質制限にかかわるさまざまな問題

IV 糖質セイゲニスト、かく語りき

V 糖質制限すると見えてくるもの
(1) 糖質は栄養素なのか?
(2) こんなにおかしな糖尿病治療
(3) 穀物生産と、家畜と、糖質問題
(4) 食事と糖質、労働と糖質の関係

VI 浮かび上がる「食物のカロリー数」をめぐる諸問題
(1) 世にもあやしい「カロリー」という概念
(2) 哺乳類はどのようにエネルギーを得ているのか
(3) 低栄養状態で生きる動物のナゾ
(4) 「母乳と細菌」の鉄壁の関係
(5) 哺乳類はなぜ、哺乳をはじめたのか
(6) 皮膚腺がつないだ命の連鎖

VII ブドウ糖から見えてくる生命体の進化と諸相
(1) ブドウ糖――じつは効率の悪い栄養
(2) エネルギー源の変化は地球の進化とともに

VIII 糖質から見た農耕の起源
(1) 穀物とは何か
(2) 定住生活という大きなハードル
(3) 肉食・雑食から穀物中心の食へ
(4) 穀物栽培への強烈なインセンティブ
(5) 穀物に支配された人間たち

あとがき