遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

総員玉砕せよ!/水木 しげる

イメージ 1

総員玉砕せよ!  水木 しげる  (講談社文庫)


昭和20年3月3日、南太平洋・ニューブリテン島のバイエンを死守する、日本軍将兵に残された道は何か。アメリカ軍の上陸を迎えて、500人の運命は玉砕しかないのか。聖ジョージ岬の悲劇を、自らの戦争体験に重ねて活写する。戦争の無意味さ、悲惨さを迫真のタッチで、生々しく訴える感動の長篇コミック。


NHKの朝ドラ「ゲゲゲの女房」、向井理ファンの娘のために録画したものを、

いつ水木家はまともな生活が出来るのかな?と気になって、私も3分の2くらいは見てきた。

ようやくここへ来て、ゲゲゲの自宅も新しくなり、スタッフも大勢抱えて、

また別の悩みも舞い込んでは来るが、とにかく仕事がどんどん入ってくるようになったようだ。


「総員玉砕せよ!」は、3年前に読んでいて、いま「永遠の0」とともに、

文庫の売れ筋商品になっていることを知り、再読してみた。

水木しげるは、戦争で片腕をなくされているが、彼の南方での戦争体験を基に書かれたのが、

コミック「総員玉砕せよ!」で、90%が事実ですと、水木はあとがきに書いている。


食べるものはおろか水もなくて、一番の下っ端である新兵たちは、

実に悲惨な生活をし続けていて、虫けらのように死んでいくのだが、

コミックになると、少しその悲惨さが緩和される。

3年前も今回も、その思いは変わらなかった。


新兵は、挨拶代わりに殴られるような生活で、米軍はいつの間にか近くに上陸しているのに、

実に生ぬるい、ゆるい軍隊生活のように見えるのは、

軍隊に何の意味づけも目的もないからなのだろう。

食糧補給も援軍もなく、ただ闇雲に銃剣ひとつもって敵陣に突っ込んでいくことが、

玉砕なのである。それが、参謀から発せられる作戦なのである。

どうせ玉砕していく兵卒に、そもそも食糧や援軍を補うつもりなどないのである。


この作品は陸軍の物語で、「永遠の0」は海軍の話だったが、

どちらの幹部も、度し難いほどの頭の悪い連中の集まりで、

それを内側から描くと、こうも生ぬるい組織だったのということが露呈する。


東京裁判は、国際軍事法廷だったが、日本兵に裁かれるべき戦犯も、

数多く存在したと思われるが、大多数の日本兵はそのことに口をつぐみ、

そのエネルギーを復興につぎ込んだのである。


水木しげるは、片腕は失ったものの、戦後を生き抜く魂のようなものを、

南の島での体験から、くだらない闘いや失った戦友や愚かな上官や軍から、

授かったのだと思うのである。