水木は左腕をラバウルで米軍の爆撃のために失っている。
この「総員玉砕せよ!」は、太平洋戦争下、
一部脚色はあるものの、当時の東南アジア各地で米軍の攻撃を待ち構えていた、
日本軍の各小隊の生活はこんなものであったのだろう。
漫画だから、水木だから、コミカルなタッチも随所に見られるが、
将校→下士官→馬→兵隊という順列のなかで、
馬以下の存在であった一兵卒たちの悲惨な物語である。
何のために戦っているのか、兵隊達は実に無知であり、
何の情報も持たず、思考することを抑えられてもいた。
そして、「戦う」ことより以上に不条理な「玉砕」は、
他の小隊の士気高揚のための、
他のある小隊総員の自殺行為であった。
小隊を任された若き将校たちは、経験が浅く若いがために、
あるいは狡猾で馬鹿な参謀たちにかく乱させられて、
常に必然的に、闘いの作戦を行使するための行き場所を失う運命にあり、
連隊全体での玉砕という形の死に場所を見つけるほかはないところまで、
追い詰められるのである。
太平洋戦争で、馬以下の扱いで犬死していった兵士達の属した総ての小隊は、
この漫画に描かれているモデル小隊と大差ないことは、想像に難くない。
さらにあの戦争のやるせなさは、
外地にいた兵隊たちの玉砕だけでなく、
日本本土の空襲や原爆投下を例に取るまでもなく、
一億総国民玉砕せよ!という声なき声であった。