遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ジャンゴ/クエンティン・タランティーノ

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出演者
日本公開 日本の旗 2013年3月1日 上映時間 165分

全米では2012年末に公開された「ジャンゴ 繋がれざる者」のご紹介。

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画像左から出演者と役柄のご紹介
ジェイミー・フォックス、主人公ジャンゴ、奴隷。
クリストフ・ヴァルツ、元歯科医の賞金稼ぎ、シュルツ。
ケリー・ワシントン、ジャンゴの妻、ブルームヒルダ。
レオナルド・ディカプリオ、南部の大農園主、キャンディ。

囚われの身だった奴隷のジャンゴは、賞金稼ぎのシュルツに助けられ自由の身になる。二人は協力して、賞金稼ぎを始める。ジャンゴには生き別れたままの妻ブルームヒルダの行方が気になっている。妻は、南部の大農園主キャンディに買われたことを突き止め、二人は救出に向かう。
本作は、西部劇型・奴隷制度反対主義的・ロードムービーである。

全編、血糊と硝煙の匂いのするバイオレンスが塗り込められている。また、南部の奴隷制度がメインテーマなので、黒人奴隷たちへの蔑称などはそのまま脚本に使われている。差別・格差・暴力が扱われているのに、タランティーノの映画には、洗練されたセンスに裏打ちされた救いがある。ユーモアやパロディのセンスもある。それらが映画作家の不可欠な持ち味であろう。

音楽と映像のコラボレーションが素晴らしい。エンニオ・モリコーネからベートーベンまで、実にさまざまなインストルメンタル音楽や、歌付きの音楽が全編に流れるが、それらがタランティーノによって映像と結びつけられると洗練されたものに仕上がる。音楽自体は、洗練に手が届きそうなところを、一歩手前でわざと崩したようなユーモアも感じる。映像も少しナイーブで泥臭いところも残している。少し舌足らずな音楽と映像がドッキングしているので、洗練されたとは言い難い場面も挿入されている。「完璧」より一歩手前で踏みとどまる、シャイなタランティーノのわざとらしさであろうと思う。

とは言え、映像美は特筆に値するものも山盛りで、雪積もる山脈や南部の大平原や大邸宅の蝋燭まばゆい食卓風景(キューブリックの「バリー・リンドン」を彷彿)など、人工物も大自然も、カメラは屋内外でその特性をいかんなく発揮していて、見事な映像を提供している。

「ジャンゴ」は、「続・荒野の用心棒」(1966)の原題から引用されていて、その主題歌も冒頭に流れ、その主役を演じたフランコ・ネロもワンシーンに出演している。「続・荒野の用心棒」へのオマージュも本作にはこめられていよう。そのほか、「荒野の1ドル銀貨」(1965)「マンディンゴ」(1975)「刑事コジャック」の影響も含まれるという。はじめて金を払って見た映画が「荒野の1ドル銀貨」で、その後マカロニウェスタン映画などで中学生時代を過ごした私には、少年時代に帰ったような懐かしさもある。黒人奴隷を南部一の早射ちガンマンに仕立ててくれて、少年時代に戻してくれた。

タランティーノ自身も例によって出演していて、ジャンゴと絡んでおいしい最期を迎えている。

本作は、アカデミー賞英国アカデミー賞ゴールデングラブ賞で、脚本賞タランティーノ)、助演男優賞クリストフ・ヴァルツ)をトリプル受賞している。ヴァルツは確かに名優である。

こういう映画を観るためにこの星に生まれてきたのである、私。