遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

それでも夜は明ける/S・マックイーン

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原作 ソロモン・ノーサップ
日本公開 2014年3月7日  上映時間 134分

ソロモン・ノーサップという黒人の音楽家が、自らの体験を著したノンフィクションが原作の映画化である。本作は、製作にブラッド・ピットなどが当たり、監督はスティーヴ・マックィーン(黒人監督、故人のスーパースター俳優とは別人)で、2014年のアカデミー賞作品賞を受賞している。

時は、南北戦争奴隷制度が廃止される20年ほど前の1841年のアメリカ。北部ニューヨーク州に住む自由の身であった黒人音楽家(バイオリニスト)が、金目当ての白人に騙されて奴隷として南部に売られるという実話物語。

原作のタイトルは「12年間、奴隷として」というもので、当時の南部の奴隷制度が手に取るように分かる映画である。「それでも夜は明ける」という邦題は、なんとも楽観的だとも思う。

本作に登場する南部の白人たちは、男も女も実に腹立たしい存在で、世の中に差別的な彼らを平気で見ることができる人間がいるのだろうかと思わずにはいられない。神は何と罪深い人間を作ったのか。そして、残念ながら奴隷制度が廃止になってから、150年たった今でも、奴隷のように鞭打たれこき使われているのも同然の多くの人たちが存在するのである。日本でもそれは例外ではないことを、この映画を見て気づいてみるのも悪くないかもしれない。

奴隷たちは、手で綿花を摘むのだが、毎日何キロ摘み取ったかを計測されて、平均(90㎏くらい)以下の奴隷は鞭打ちされるのである。現代の日本企業に例えると、「摘み取った綿花の重量」がノルマで、「鞭打ち」が待遇や賃金に置き換えられよう。

映画の後半で、旅人として奴隷たちと一緒に仕事をするブラッド・ピットが、農場の雇い主に「これではあまりではないか?同じ白人として恥ずかしい」と抗議する場面がある。ブラピは、この映画のプロデューサーだが、美味しい役どころも演じているのだが、当時で言うならエイブラハム・リンカーンのような正義感の持ち主である。ブラピはほんのちょい役だったが、現実の彼もこういう人間なのであろうと容易に想像がつくところが、単なる二枚目俳優でない素晴らしさであろう。