ニューヨークのクラブの用心棒として働くトニーは、クラブが改装工事のため閉鎖されてしまうため新しい職を探していたところ、南部のコンサートツアーのための運転手として黒人音楽家ドクター・シャーリーに雇われる。
シャーリーはクラシックのピアニストで、トリオ形式でのクラシカルなコンサートツアーを計画していた。
運転手兼用心棒のトニーは、黒人への差別意識が強いイタリア系白人だが、家族を養うため後部座席に黒人が座るキャデラックのハンドルを握ることになった。
時は1962年で、クリスマスまでの8週間のロード・ムービーだった。
タイトルの「グリーンブック」とは、黒人専用のレストランや宿泊施設の案内ガイドのことで、運転手のトニーはその差別的なグリーンブックを手渡されてシャーリーのマネージャーのような世話役まで担うことになった。
当時のアメリカ南部は黒人差別がまだまだ色濃く残っていて、差別的なトニーでさえ驚くようなことが連続するのである。
主人公のトニーを演じるのが、ヴィゴ・モーテンセンで、「ロード・オブ・ザ・リング」三部作のアラゴルン役で世界的な名声を得たあの俳優である。まったく違った人間を演じ切るのが名優とはいえ、私も妻もトニーがアラルゴンの彼だと知ってとても驚いた。
また、リトル・リチャードもアレサ・フランクリンも知らないという、信じられないほど上品な黒人音楽家シャーリーを演じるのが映画「ムーンライト」でアカデミー助演男優賞を獲得したマハーシャラ・アリ。
彼は「ムーンライト」ではまるで善人ではない危ないファンという役だったので本作ではこれまた別人のような演技で驚いた。本作の繊細な青年役の演技により、二度目のアカデミー助演男優賞に輝いている。
差別的な風土に出会ってしまうイタリア系青年トニーの素朴な感性や、トニーの留守を預かる妻のチャーミングな性格に、私たちは次第に心が洗われていく。第91回アカデミー賞(2019年)では、助演男優賞のほかに作品賞と脚本賞を受賞している逸品である。ネット配信各社で鑑賞できる。