遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

少年/大島渚

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少年
監督:大島渚
脚本:田村孟
撮影:吉岡康弘、仙元誠三
音楽:林光
出演者
父=渡辺文雄母=小山明子少年=阿部哲夫、チビ=木下剛志
公開年 1969年
上映時間 101分

大島渚は、一生涯怒って突っ張って生きた印象がある。手がけた作品は、いつの時代にもアバンギャルドで話題性があった。しかしその映画作品より、監督の方が目立っている印象もある。そんな大島作品ではあるが、私は「戦場のメリークリスマス」を見たに過ぎなかった。

で、このほど吉永小百合のおすすめ企画で大島渚の1969年作品「少年」を鑑賞。1966年に実際にあった「当たり屋」家族の事件がベースになった作品。

高知県出身の父親を筆頭とする家族が、車にはねられた事故をよそおい、示談金をせしめて全国を行脚するというロードムービー。最後は、雪の北海道にまで逃げていく。

ATG(アート・シアター・ギルド)の低予算作品ながら、カラー作品である。日本各地の街頭ロケシーンが印象的で、エキストラなど一人もいないが、4人の出演者は街に溶け込んでいる。まるでドキュメンタリーのようでもある。

少年は、犯罪を繰り返し流れて行く家族の中で、息詰まるような暮らしに耐えていく。

主人公の少年役阿部哲夫は、養護施設にいた孤児だったそうだ。演技の出来る子役ではないし、可愛い顔もしていない。大島渚がどのように演出したのかは知らないが、少年は「演技」を感じさせない自然さがあり、カメラに撮られている意識もないように感じられる。

大島は、見事に少年を映画の中に存在させた。「戦メリ」で抜擢された北野武に比べれば、その個性は忘れられない強さや悲しみがある。でも、それはアバンギャルドではなく、自然な人物として存在している。小津安二郎の描く人物たちより自然である。

「少年」は、私の観た大島作品の中でナンバーワンである。2本しか見ていないが、断言できる。

悲しい昭和は遠くになりにけり。