立憲民主党所属の衆議院議員小川淳也。東大法学部を卒業して総務省(当時は自治省)に入省した経歴を持つ小川は、現在49歳で出身地と選挙区は香川県高松市。家賃4万7千円の借家で4人家族暮らし。
その小川を追いかけたドキュメンタリー映画が「なぜ君は総理大臣になれないのか」。
小川が総務省を辞め32歳ではじめて衆議院に出馬した選挙戦から、監督の大島新は彼を追いかけはじめた。2020年に映画が公開されるまでの17年間の記録である。
私が小川淳也をはっきり認識したのは、所属していた希望の党が解散し立憲民主党の会派に加入したころ。それは、勤労統計調査の長年の不正(GDP数値の不正な操作など)を、小川が国会で政府に厳しく追及したころだった(2019年2月頃)。
その場面は、この映画の後半にも再現されるが、あの追及はリアルタイムで胸のすく思いで観ていた。
小川は2003年の最初の立候補は落選し、その後の選挙区選挙では当落を繰り返し、比例区で復活当選をして現在に至っている。彼の苦渋に満ちた選挙戦がスリリングで実に面白い。一方で、普段の政治家としての小川は誰にでも等距離で接することのできる好人物として描かれている。それは、映画に頻繁に登場する彼の父母や妻やふたりの子どもたちや彼の秘書たちや彼の支持者たちを見ていれば、好人物が集まった小川ファミリーだと容易に想像できるのだった。
好人物だから支えてもらえるのか、良い人たちに支えられたら好人物になるのか、彼らを見ているとその両方だろうと思えるのだ。
監督の大島新は、父母に大島渚と小山明子を持つ現在51歳のドキュメンタリー作家だ。
17年間、東京と高松を往復して映像をつなぎ合わせてこの映画を完成させた。実に気の長い話ではあるが、小川と彼を取り巻く人たちのリラックスぶりを見ると、通い詰めたことによる信頼感が映画を完成させたとも言えよう。
魅力的な被写体、若くて能力ある政治家と彼を取り巻く時代の紆余曲折が実に愉快だった。小川と私の考え方はぴったり一致するわけではないが、彼には総理になってもらいたい。しかし、好人物は総理になれないだろうなあと思わずにはいられない、さわやかな清々しいドキュメンタリーだった。
不正統計を国会で追及した時の、小川淳也のあの爽やかさを創り上げた源泉が、この作品には息づいていると思った。