遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

天の梯―みをつくし料理帖/高田郁

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天の梯―みをつくし料理帖  高田 郁  (ハルキ文庫)

5年間にわたり全10作が刊行された「みをつくし料理帖」シリーズの最終作「天の梯(そらのかけはし)」を読了。

まだ5年しかたっていないのかと思うほど、長く感じたシリーズだった。24歳の主人公の澪が、つる家でお世話になって6年だと本作にある。6年間の澪の苦難や成長を見ながら、私たち読み手もほぼ同じ期間を澪と暮らしてきた。

完結篇になる本作について、何を書いてもネタバレになるので、いいレビューは書けないが、シリーズ10作を通してお読みいただけたらと思う。
みをつくし料理帖」は、静謐な人たちを多く登場させた、すがしいシリーズであった。貧しくても苦しくても、静謐に生きる。それが、洗練だということを読み取っていただきたい。

現代に置き換えて現実をよく見て感じ取れば、今でもこの国には善男善女が圧倒的に多く住む国だとも思う。自分もすがしい心で生きようと、このシリーズを読んで感じてもらいたいものだ。

時代が文化から文政に変わったところで、この物語は終焉を迎えた。澪たちのその後が気になるところだが、文政時代になってからの10年後は、付録の番付表でうかがい知ることができる。ゆめゆめ読み落とされないように。(「銀二貫」に登場した井川屋も健在である。)こういう微笑ましい付録まで付いていて、このシリーズのサービス精神は澪の料理のように壺を心得ていて素晴らしい。

私も、少しずつ良い料理人(素朴な家庭料理人)に近づいていこうと思う。