遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

花散らしの雨/高田 郁

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 花散らしの雨  みをつくし料理帖   高田 郁 (ハルキ文庫)


上方生まれのお江戸の女料理人澪(みお)のサクセスストーリー、

シリーズ第2弾が「花散らしの雨」。


今回の献立(各章タイトル)は、

   俎橋(まないたばし)から-ほろにが蕗(ふき)ご飯、

   花散らしの雨-こぼれ梅、

   一粒符-なめらか葛饅頭(くずまんじゅう)、

   銀菊-忍び瓜、


以上の四品である。


澪はまだ二十歳前。

お客さんに料理を美味しく食べてもらう努力と工夫を惜しまない。

その一途さが大人の感性にくるまれていて、

読み手は設定年齢を忘れがちになる。


著者の高田郁(かおる)は、私には出会ったばかりの作家で、

澪に近いお歳と錯覚してしまうのだが、

こちらは実は、澪の母親世代に属するお方である。


なので、作家のキャリアが、澪の歳に似合わぬ老練さに、

乗り移っているのだろう。

このシリーズの1作目から登場する、

生まれも高貴でさわやかな青年医師源斉先生を巡る、

大店の娘で、とびきり美人の美緒との恋の鞘当てにも、

澪は、一向に同じることなく落ち着き払っている。

その落ち着きぶりようは、澪と源斉先生のロマンスの発展に、

何の寄与もできないまま、シリーズ2作目は終ってしまった。


澪は、高貴でさわやかな青年医師より、

齢三十前後、薄汚れた袷(あわせ)をまとい、

澪の料理に歯に衣着せぬ評価を下す、

謎のお侍小松原の方に心を寄せていく。


この作品でも、澪を取り巻く市井の人たちには、

さまざまな艱難辛苦が降りかかってくるのだが、

物語は私の予想通りに展開していき、

澪の細腕から生まれる、爽快なまでに江戸町衆に受けのいい料理とともに、

期待に違わず物語はまっすぐに王道を進んでいく。


ただひとつだけ、澪の純愛は年の離れた、口の悪い、

素性のよく知れないお侍に注がれようとしているところだけが、

王道をはずれている。

でもそれがなぜか楽しみな私なのである、3作目が待ちどおしい。