遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

残月―みをつくし料理帖/高田郁

イメージ 1

残月―みをつくし料理帖  高田郁 (ハルキ文庫)


吉原の大火、「つる家」の助っ人料理人・又次の死。辛く悲しかった時は過ぎ、澪と「つる家」の面々は新たな日々を迎えていた。そんなある日、吉原の大火の折、又次に命を助けられた摂津屋が「つる家」を訪れた。あさひ太夫と澪の関係、そして又次が今際の際に遺した言葉の真意を知りたいという。澪の幼馴染み、あさひ太夫こと野江のその後とは―――(第一話「残月」)。その他、若旦那・佐平衛との再会は叶うのか? 料理屋「登龍楼」に呼び出された澪の新たなる試練とは…。雲外蒼天を胸に、料理に生きる澪と「つる家」の新たなる決意。希望溢れるシリーズ第八弾。 


「残月―みをつくし料理帖」は、1年3か月ぶりの出版となったみをつくし料理帖シリーズの第8弾である。

出版されてすぐ読了することなどないのに、シリーズ7巻目の「夏天の虹」が出版されたのが2012年3月で、私がそれを読み終えたのが2012年4月。なので、第8巻が出版されるまで実に長い間待つことになってしまった。

私が時々食事をするレストランのシェフ。このシリーズのファンだとお客に言ったら、そのお客が作者の高田郁を店に連れてきてくれたのだという(じぇじぇ!)。その話を聞いたのが今年の6月だったので、「残月」の出版を前にひと区切りついて高田さんは食事に来たのかもしれない。

このシリーズは、主人公澪と彼女を取り巻く人たちの幸せはいずこに、といったテーマが底流にある。表層の物語はもちろん面白くてよく考えられていて、ていねいにつくられた良い料理のようだが、読者の心をとらえて離さないのが、大地の底を伏流水のようにゆっくり流れる彼女や彼らの幸せの行く末なのである。

むろん皆が幸せになるわけではなくて、亡くなってもう姿を消してしまった登場人物もいる。かと思いきや、また違った登場人物が姿を現す。

いずれにしろ、「みをつくし料理帖」シリーズは、寅さんシリーズのように毎回完結するのではなく、物語がずっと続いていく。今回は、新たな展開がとてもワクワクさせてくれるが、大きな展開はなくて次回以降の期待にもワクワクしてしまう。

ネタバレにならないように書いているので、まるで芯のないレビューになってしまったが、もう次巻は書きあがっていて、出版時期を待っているだけなのかも知れない。またすぐ幸せになれそうな予感の「残月」であった。