遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

夏天の虹/高田郁

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夏天の虹―みをつくし料理帖  高田郁 (ハルキ文庫)

想いびとである小松原と添う道か、料理人として生きる道か・・・・・・澪は、決して交わることのない道の上で悩み苦しんでいた。「つる家」で料理を旨そうに頬張るお客や、料理をつくり、供する自身の姿を思い浮かべる澪。天空に浮かぶ心星を見つめる澪の心には、決して譲れない辿り着きたい道が、はっきりと見えていた。そして澪は、自身の揺るがない決意を小松原に伝えることに――(第一話「冬の雲雀」)。その他、表題作「夏天の虹」を含む全四篇。

みをつくし料理帖シリーズはこの「夏天の虹」で第7弾となる。

3月に発売されてすぐ買い求めて、五月を前に読み終わったのだが、
描かれていた季節は、早春から初鰹の端午の節句頃までだったので、
物語と同じ季節を感じ、物語の中で旬の食材を楽しむことになった。

シリーズ6作目での多くの読者の予感どおり、物語は進んでいく。
主人公の料理人澪(みお)には、悲涙の厳しい季節になった。

「淡い期待」は持たないことが、人生の鉄則。
期待や予想が外れても落胆しない人以外は、淡い期待は持たないほうがいいのかもしれない。
澪はその期待を持ったがために、心身のバランスを崩すことになった。

バランスが崩れたことにより、料理人としての職責を果たせなくなってしまう澪。
その澪をおもんぱかって、周辺の人たちが東奔西走する。
澪が料理長の「つる家」の人のいい店主や奉公人たちや、
さまざまな職に就く彼女の料理ファンや、彼女の一途さに一目を置く人たちが、
あたたかいまなざしと、口に出さない励ましで見守り続けてくれる。

いつものことながら、作家のその人物像の書き分けが秀逸であり、
一番人の善い「つる家」の店主種市が、一番凡庸に感じてしまうほど、
その他のレギュラー陣の個性が際立っていて見事なのである。

最後の最後になって、またつらい厄災が女料理人に降りかかるのだが、
そのショックが澪のアンバランスな体調に逆効果を及ぼし、
次のステージに何とか歩を進めることができそうでなのである。

年2回の刊行ペースだったみをつくし料理帖シリーズは、
今年は1回だけの発売になり、作家はしばらく取材等のシーズンに入るという。

そして、5月には、このシリーズの料理レシピ(写真・エッセイ付き)が、
文庫本で出版されるという。
料理の腕前でも磨いて、次回作を待つとしよう。