ニューヨークを飛び立って、愛機の「スピリット・オブ・セントルイス号」で
世界初の大西洋無着陸単独陸横断飛行に成功したリンドバーグ。
33時間の飛行の後に「翼よ、あれがパリの灯だ!」と相成るわけである。
パリを訪れた時、私の搭乗した飛行機は、関空を予定より数時間遅れて離陸していた。
午後にパリに到着予定が、深夜近くになっていた。
出鼻をくじかれた旅であった。
私たちの飛行機がパリ上空に近づき、徐々に高度を下げていくとき、
目に飛び込んできたのがパリの灯であった。
東京や大阪の夜景は、カラフルで上空から見ると、
宝石箱のようにきれいである。ニューヨークもそうなんだろうと思う。
しかし、パリの夜景は淡いオレンジ色、単色のイルミネーションであった。
ろうそくの炎の色と同じ、あの暖かいオレンジ色である。
私は10分かそこらの短時間で、その日の損をした数時間を取り戻したような気分になっていた。
それから何日か後に訪れたマドレーヌ寺院の、
ろうそくの明かりの神々しさにも、感動した。
私もろうそくを1本寄贈してきた。
ヨーロッパの街角に立つと、洗練された色使いに感動を覚える。
誰かが指示または規制しているのか、自然とあの統一感が出来上がっているのか、
その両方であろうが、いずれにせよ伝統的なセンスのよさである。
ロンドン(行ったことはない)を走る、あの赤いバスが、
しっとりとした雰囲気を壊さないところが、不思議である。
一様に落ち着いた色合いが多いから洗練されていると、
一概に言えない良い例が、ロンドンの二階建てバスである。
パリの夜景を機内で目にした私は、
自分の家の灯りは、総てあのろうそく色に統一しようとこころに決めた。
ちょうど10年前のことであった。