遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

豊後里道に月を見る/ 高山辰雄

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「豊後里道に月を見る」 高山辰雄


私が最も好きな現役の日本画家が、高山辰雄


この間のNHK「日曜美術館」の特集番組で、

ゲストの女優羽田美智子が、高山の絵とその絵に向かう高山の姿に、

感動してぽろぽろ涙を流していた。

齢94を重ねる、日展の重鎮である。


私は若い頃から、よく日展を観にいった。

画像の「豊後里道に月を見る」は昨年の出品作である。

ふるさとの大分で見た月を思い描いたものであろうか、

黄色い岩絵具を丹念に置き重ねた力作である。


今年の日展の出品のために、目下制作中であると、

先の特集番組では紹介されていた。


「若い頃には60歳にもなれば思い悩むこともなく、

すらすら絵が描けているようになるんだろうなと想像していたが、

とんでもないことで、70歳に近づいた今でも不完全なものしか描けません」


優れた芸術家の飽くなき探究心をよく表した70歳を前にした頃の彼のことばである。

そして94歳になってもまた、日展に出品するために筆を持つ日々が続いているようである。

氏の製作中の映像を何度も見たことがある。

日本画はふつう床において色を重ねるが、

高山は絵を立てかけて制作をする。

そして、何度も何度も遠く絵から離れて出来具合を確かめる。

いったい完成にまで何度あの往復を繰り返すのだろうかと思う。


6年前まで、文藝春秋の表紙を描いていたのが高山辰雄であった。

1枚の表紙でいくら画家の手元に入るのだろうか。

かなり前、加藤芳郎週刊朝日巻末の両開きで、100万円と聞いたことがある。

年間5千万円のお仕事である。

山藤章二のブラックアングルは、面積では加藤の半分ではあるが、

同じくらいくらいは払われているのだろう。


高山の表紙も年間5千万円だったとして、1枚400万円。

ま、当然と言えば当然の対価であろう。


しかし氏は、そんな下世話な話をする私などとは次元の違う高みに居る、

アトリエで制作を続ける姿を見るにつけ、

とつとつと芸術を語るのを聴くにつけ、

その人間愛に満ちた完成作品を観るにつけ、そう思う。


次の日展にもまた、高山を観にいくことにしようと思う。