走らなあかん、夜明けまで 講談社文庫
大沢 在昌 (著) 価格: ¥620 (税込)
私の仕事場は大阪で、仕事上、東京からの客人が少なくない。
それと、単身あるいは家族で、大阪に赴任している客人も多い。
彼らの元の職場は総て東京なのだが、赴任したばかりの人に、
「大阪に転勤、と命を受けた時は、どう思った?嫌だと思った?」
と、尋ねることにしている。
関西出身者と関西に土地勘がある人以外は、相当な覚悟で赴任するようである。
仙台や名古屋や福岡への赴任でも、同じことだと思うのだが、
大阪は外国に等しいようである。
中には、直ぐなじめて、いつまでも大阪に居たいと思う人もいるが、
そういう人は、どこへ行かされても大丈夫な人なのだろう。
何しろ、大阪は怖い・汚い・けったいな街という印象がある。
大阪には、漫才師とやくざしか居ないという、偏見がある。
蛇足ながら、これらは、面白おかしく仕立てた話で、
ちょっと想像力を働かせれば解る事だが、大阪も東京も同じである。
ロンドンとニューヨークくらいの差しかない。両方行ったことがないが。
「走らなあかん、夜明けまで」は、東京から出張でやってきた若きサラリーマンが、
大阪で事件に巻き込まれるお話である。
将棋の坂田三吉と一字違いの、坂田勇吉という名の主人公の、
一昼夜におよぶヤーさんとのトラブルのお話である。
著者は、大沢在昌、http://www.osawa-office.co.jp/
私は「新宿鮫」で、15年前に彼と出会った。
この「新宿鮫」シリーズは、また改めて記事にするが、
東京を舞台にした、ハードボイルド小説である。
一方、「走らなあかん、夜明けまで」は、
「涙はふくな、凍るまで」という1作とともに
「不運の坂田シリーズ」と銘打たれたシリーズである。
ある事情で、タイムリミットがある物語なので、
坂田は大阪中を、まさに「走りまくる」ことになるのだが、
これがスリリングで、読む方も一気にラストまで突っ走ってしまう。
「新宿鮫2 毒猿」と同じくらい面白い!
大阪には、漫才師とやくざしか居ないという、偏見が払拭され、
直ぐなじめて、いつまでも大阪に居たいと思わせる素敵な人も登場し、
何より、他の大沢の作品とまったく違う雰囲気が新鮮である。
私は、著者の作品をかなり読んでいるが、「まったく違う」雰囲気を感じるのは、
著者が、舞台を「外国」仕立てにしてしまったからなのかもしれない。
ちなみに、大沢は、名古屋出身、吉本新喜劇の文化圏内で育っている。(なんのこっちゃ?)
大阪に出張される折には、これを買って新幹線(or飛行機)で読まれたい。
坂田クンのような目に遇っても、大丈夫だから…。怖がらないで!