「ハッピーアイスクリーム」加藤 千恵、「三たびの海峡」帚木 蓬生
「夜は短し歩けよ乙女」森見 登美彦、「選ばれる男たち」信田 さよ子
「おそめ」石井 妙子、「きっこの日記」きっこ、「凍」沢木 耕太郎
これが今年初めてその作品を読んだ作家たちである。
みな良い出会いであった。
で、このたび伊坂幸太郎の作品も、はじめて読んだ。
「重力ピエロ」などで実に5回も直木賞にノミネートされ、
著名作家の仲間入りを果たしていたので、以前からよく知っていたのだが、
作品「グラスホッパー」が初めての出会いとなった。
すぐさまその世界に引き込まれて、
読むのが遅い私だが、一気に最後まで読破してしまった。
組織のドンの馬鹿息子が運転する車で、
妻をなくした鈴木は、妻の復讐を果たすためにその組織に潜入する。
ターゲットはその組織の社長の長男で、妻を死に追いやった男。
ただ馬鹿な男だけに敵は数多く、ある日、鈴木の目の前で、
雑踏の東京のとある交差点で、長男は交通事故に遭う。
雑踏にまぎれて、誰かが長男を車道に突き飛ばしたように見え、
その場をあわてて去る男が目に入った鈴木は、
組織の「あの男を追え」という命令もあって、
妻の仇である長男を、突き飛ばしたらしき男を追走する。
その鈴木の大冒険がこの作品の主要ストーリーで、
彼はいわゆる堅気の一青年なのだが、
鈴木を取り巻くというか、絡みあうのが個性ある「プロ集団」。
とにかく金になる事ならどんなことだってやってしまう、
よからぬ組織のドンとその息子は、
命を狙われてもしかたのないような世間の鼻つまみ父子。
同じく同類の鼻つまみ政治家企業家などの集合体と、
馬鹿父子の関わるくだらない集合体とは、交わる面積は決して狭くなく、
いろんな世界のプロ集団が、
その周辺を惑星のようにグルグル自転と公転を繰り返しているのだった。
作られたハードボイルドの世界でないと、
実際にはお目にかかれないキャラたちが跋扈し、
すこしずつ各処に意外性をちりばめて、
組織のドンの結末など、おーそう来るかと肩透かしを食らって、
最後まで、手抜きなしに丁寧に楽しませてくれた。
もう直木賞はいりませんと、
直木賞候補になることすら辞退したらしい伊坂。
それでいいと思う、
その代わり、毎年本屋さん大賞に候補になるような作品を、
今後も書き続けてほしい。