いい本に出合えた。村田沙耶香の書評をまとめたものがこの一冊になった、タイトルは「私が食べた本」。
マイブログや読書メーターで、私も読書感想のようなものを書いているが、著者の文章を読むと、私のそれは落書き程度のものだと思い知る。
村田は、小学生のころから小説家になると決めていたお嬢さんだったようで、そうと決めた少女の観察眼は、自分の小説世界を膨らまし滋養を蓄えるツールとしてずっと機能してきたのだと思う。
彼女が「食べた」多くの本の、そのどれも私が読んだことがないのが奇跡だった。
大江健三郎、川上弘美、中村文則、柴崎友香、岡本かの子などは読んだことがあるが、本書に取り上げられた作品は総てが未読。村田が高校生のころから、いろいろ愛読してきた山田詠美にいたっては、私は一度も読んだことがない。
山田の世界が私にはまぶしくてついていけなくて、苦手な世界なので敬遠してきたが、ほかの未読だが読みたい作品群の仲間に入れてみようと思いはじめた。
村田の書評を読んで、すっかりその作品を読んだ気にさせられたような作品もあったのだが、そのどれもがため息の出るような、食べ方というかしゃぶり方で、さすがに芥川賞作家(賞を取る前の書評がほとんど)はすごいのである。
何度何度も同じところをしゃぶりつくすと、自分の血となり肉となるようなのである。粘着系の著者なら、さもありなんと思うのである。
本書の初めの方に、岡本かの子の「夏の夜の夢」という短編が紹介された。村田の書評を読んでいて、短編だとのことだったのですぐに読みたくなり「青空文庫」で読んだ。何とも、慎ましくて美しくて幻想的な小説であった。そこには忘れがたい閑さがあった。
夏の夜の夢/岡本かの子
本書に会わなければ、ついぞ読むこともなかっただろうと思うと、著者に感謝したい。
多くの近作を、素晴らしい解説付きでとりあえずは読んだような気になるので、まずは村田沙耶香のこの本を読まれることをお勧めする。