遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

「大家さんと僕」と僕/矢部太郎

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「大家さんと僕」と僕     矢部 太郎 (著) 新潮社


吉本の漫才師カラテカ矢部太郎の新刊「「大家さんと僕」と僕 」のご紹介。

最新のトーハン調べの総合部門のベストセラー(週間ベスト10)によると、矢部太郎の「大家さんと僕 これから」が第1位で、本書が第8位にランクインしている。三浦百恵や直近の芥川賞直木賞受賞者、東野圭吾と並んでベスト10に2冊もランクインしている快挙。

そもそもは「大家さんと僕」が実にいい出来で、しかもとてもよく売れた。その「大家さんと僕」が昨年の手塚治虫文化賞(短編賞)を受賞して、さらに大きな話題を呼んだ。本職の漫画家以外が作画した作品としては、初の受賞だった。

現在ベストセラーになっている「大家さんと僕 これから」は、「大家さんと僕」の続編なのだろうか。本書「「大家さんと僕」と僕 」はスピンオフ作品と位置付けられよう。

本書は、にぎやかな楽しい構成になっている。矢部太郎の漫画とエッセイ、手塚治虫文化賞の授賞式(矢部のうるうる受賞スピーチ、手塚るみ子との受賞記念対談)のようす、著名人の「大家さんと僕」讃歌、絵本作家の父親やべみつのりとのほんわか対談、「電波少年」の土屋プロデューサーとの爆笑対談などで構成されている。

執筆陣は、ちばてつや里中満智子秋本治ヤマザキマリ板垣巴留糸井重里平愛梨三浦しをん村田沙耶香、木下ほうか、鉄拳、いしかわじゅん、小松政男、品川祐、燃え殻、矢作兼という絢爛豪華さ。吹けば飛ぶような一介の芸人ではなく、矢部太郎という文化人へのオマージュがちりばめられていて美しい。カラーページも豊富で、おもちゃ箱のように楽しい。

ちばてつや里中満智子秋本治ヤマザキマリ板垣巴留は書下ろしのイラストが挿入されているし、その他の執筆陣の似顔絵は矢部が筆を執っている。矢部太郎は、自画像は照れ隠しもあってちっとも本人に似ていないのだが、この執筆陣の似顔絵で彼の腕の確かさとやさしさを知ることができる。

吉本の一連の闇営業の中心人物だった相棒の入江は吉本を去り、カラテカは事実上解散となった。しかし、矢部太郎は悲しみを乗り越えて漫画家としてさらに大きくなってほしいと思う。