遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

珈琲が呼ぶ/片岡義男

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珈琲が呼ぶ  片岡義男  (著)  光文社

片岡義男のエッセイ。コーヒーが主役ではないが、各章にコーヒーが登場する長さもまちまちのエッセイが単行本350頁にぎっしり詰まっている。

数年前に著者のエッセイ「歌謡曲が聴こえる」(新潮新書)を読んだ。昭和のノスタルジーがあちこちの頁に刷り込まれた良書だったが、本書も同じ肌合いを持つ。

茶店、邦画、洋画、コミック、劇画、クラシック音楽、歌謡曲、ロック、ジャズ、ブルース、タンゴ、東京、京都、編集者、原稿書きなどなどとコーヒーにまつわる興味深い話が片岡義男の独特の文体で綴られる。

片岡の小説は読んだことがないが、「きまぐれ飛行船」で彼がDJをしていた番組はよく聴いていた。あのしっとりとした語り口や話の内容がそのまま活字になったような本書である。

気取っているようでいて不自然さがなく滑らかなつながりのある言葉を彼が持つ所以が、本書を通して垣間見える。

学生時代からフリーランスのライターだった片岡は、そのキャリアが深くて長くて実体験に基づいていて、喫茶店で書いた原稿用紙の枚数が半端でないのだ。編集者などとの打ち合わせのために喫茶店で過ごした時間も回数も、同様。

退職者になったいま、私は一人でカフェや喫茶店に入ることはあまりなくなったが、学生時代はバイト帰りの遅い時間いジャズ喫茶に一人でよく通ったし、サラリーマン時代は、ランチの後のコーヒーは一人でよく飲んでいた。タバコを吸っていた頃は特にそうだった。

本書を読んでいたら、喫茶店に行きたくなった。とりわけ、本書で取り上げられた京都の老舗の喫茶店(行ったことがあるところもそうでないところも)に行ってみたいと思っている今日この頃である。