遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

鳶・鴉図(とびからすず)/与謝蕪村

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「鳶・鴉図(とびからすず)」 与謝蕪村  北村美術館蔵(京都市


風雨がたたきつけるように襲ってくるなか、じっと嵐が通りすぎるのを待つ鳶(とび)。

暗闇をしんしんと舞い落ちる雪の中、身を寄せ合ってじっと朝を待つのは二羽の鴉(からす)。

晴れた大空を自由に飛び交う鳥たちを、このようにじっと耐える姿で描いた与謝蕪村(1716-1787)。


大阪に生まれた蕪村は、幼少期は母親の郷でもある与謝の地(京都府日本海側)で過ごし、母親が無くなってからは天涯孤独の身で日本各地を周遊し、晩年は京都に居を構えた。

「鳶・鴉図」は、「謝寅(しゃいん)」の落款を有す蕪村晩年の作品である。重要文化財

俳句を作りながら諸国を鳥のように自由に歩いて来た自分を、実はずっと風雪に耐えてきた人生だったのだよと、晩年の蕪村は言いたかったのかもしれない。

鳶の図は、風が見える。

鴉の図は、白く塗り残した舞う雪に、芸術の一瞬を見ることができる。

残された俳句と俳画と絵画から、この孤独な天才の創作活動を通じた生涯が見えてくる。