遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

農民の婚宴/ピーター・ブリューゲル

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「農民の婚宴」 1568年 114㎝×163㎝ 美術史美術館(ウィーン)

今回ご紹介の絵は、ピーター・ブリューゲルの名作「農民の婚宴」。

本作は、「雪中の狩人」から3年後の1568年に描かれた作品。1563年の結婚を機にベルギーの田舎からブリュッセルに移り住んだブリューゲルは、都会の生活に慣れるにつれ農村の生活を題材にし始めたという。

祭りや結婚式やイベントや雪が積もった観光名所には、カメラを持ったおじさんたちが駆けつけるが、ブリューゲルも同様に農村に足を運んでスケッチをしたようだ。

奥の壁に深いグリーンのタピストリーの前にちょこんと座っているのが、どうやら今宵の主人公の花嫁のようである。ふくよかな感じでおめでたい。

古今東西、婚宴は似たようなもので、本作からは主人公はそっちのけで皆が楽しんでいる空気が伝わってきて愉快だ。老若男女が、食べて飲んで歌って、給仕する人たちもてんてこ舞い。会場はまだダンスは始まっていないが、奥の入口には、まだ人が詰めかけている様子がうかがえる。

この絵も、美術の教科書でお目にかかったと思うが、何より印象的なのが一番手前の戸板のようなもので料理を運ぶ二人の男衆である。ふたりのコスチュームも食べ物の運ぶ方法も実にユニークで、こればかりは16世紀のベルギーの風が吹いている。
男衆ふたりを中心に、土間は水平に広がり、壁はきちんと立ちあがって連なり、奥行きのある、一度見たら忘れられない構図である。

海外の美術館に行くと、本物の作品の前でその作品を模写している人をよく見かけるが、私が美術史美術館を訪れた時に、この作品の模写をしている人がいた。本物を前にしてすごいなあと思うのだが、何というぜいたくなんだとも思ったしだいである。