遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

冬のフロスト/R・D・ウィングフィールド

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冬のフロスト <上・下>   R・D・ウィングフィールド  芹澤 恵 (訳)   (創元推理文庫)

寒風が肌を刺す1月、デントン署管内はさながら犯罪見本市と化していた。幼い少女が行方不明になり、売春婦が次々に殺され、ショットガン強盗にフーリガンの一団、“怪盗枕カヴァー”といった傍迷惑な輩が好き勝手に暴れる始末。われらが名物親爺フロスト警部は、とことん無能な部下に手を焼きつつ、人手不足の影響でまたも休みなしの活動を強いられる…。大人気警察小説第5弾。


前作の翻訳「フロスト気質」から5年の歳月を経てようやく刊行された本書「冬のフロスト」。
英国で「冬のフロスト」原作が出版されたのが1999年だから、10年以上経っての翻訳版ということにもなる。上下巻合わせて千頁近いボリュームで、ゆったりペースの発刊に相応しい読み応えではある。いつものことながら、混沌としたストーリー展開に我慢を強いられる読み応えである。

架空のデントン警察署のフロスト警部は、経費予算にヒステリックで出世志向が顕著な目立ちたがりで身なりには一部の隙もない署長を上司に持つ。金は出さないけど口は出すこの署長に読者は少なからずストレスを感じる。
また、犯罪捜査の手足となる部下たちの能力や性格にもいささか問題があり、経費予算以上にフロストを悩ませることになる。ことに若い男性警官に、読者は怒りにも似たストレスを感じる。

そして、デントン署の最も大きな問題点は、フロストの思い込み捜査による彼の率いるチーム能力の低下にある。しかし、フロストにスマートさは皆無だが、自分の無能さをよく掌握しつつ、時間を惜しんであれこれ手を打ち少しずつ前進していく。そんな真摯な姿勢は、部下の信頼を得るだけでなく、洋の東西や時代を超えて読者を魅了する。なので、毒のある下品なフロストおやじに5年も待たされても、また会いに行くのである。

このシリーズは、2008年の“A Killing Frost”が最新なのだそうで、早期の翻訳が待たれる。