遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

追撃の森/ジェフリー・ディーヴァー

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追撃の森  ジェフリー・ディーヴァー  土屋 晃 (翻訳) (文春文庫)
 

物語の舞台は、アメリカはウィスコンシン州(シカゴがあるイリノイ州の北側の州)。人里離れた湖畔の森の中に建つ別荘から911通報(日本だと110番+119番通報)があり通話は途中で終わってしまった。
自宅での楽しい夕食を前に、念のために様子を見に行ってくれとボスから頼まれたのが、女性保安官補ブリン・マッケンジー。そこから物語は動き出す。


通報で森の別荘を訪れた女性保安官補ブリンを殺し屋の銃撃が襲った。逃げ場なし―現場で出会った女を連れ、ブリンは深い森を走る。時は深夜。無線なし。援軍も望めない。二人の女vs二人の殺し屋。暁の死線に向け、知力を駆使した戦いが始まる。襲撃、反撃、逆転、再逆転。天才作家が腕によりをかけて描く超緊迫サスペンス。:


ブリンと別荘で事件に巻き込まれたミシェルの女二人組は、二人の男(殺し屋)たちに追撃され、森の中を逃走することになる。
暗い森の中を、何とか車が走る幹線道路まで脱出しようとするのだが、地図も携帯電話もコンパスも銃もない女二人は、狡猾な男二人から逃げ延びることができるかという一夜の出来事を、564ページにわたってたっぷり楽しませてくれる。

森を逃げるシーンは、脳内で映像になりにくいのだが、逃げながらブリンの胸に去来する様々な心配事はくっきりと鮮明である。一人息子のことや別れた夫のトラウマや今の夫との距離感など、目の前の逃走劇とは関係のない心配事が心を占め、そこに寄り添って殺し屋からの恐怖をやり過ごしたり危機意識を取り戻したりと、本線とは別のストーリーもリアルで印象的。

「追撃の森」は、ジェフリー・ディーヴァーのノン・シリーズもの。ディーヴァーのお得意・お約束のどんでん返しは、ここでも健在である。最終ページの最後の1行でほっとする読者は、健全であろう。

四月の寒い森をふるえながらの男女4人の追撃迎撃ストーリーは、猛暑にはお勧めの涼しい物語である。