遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ソウル・コレクター/ジェフリー・ディーヴァー

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ソウル・コレクター 〈上・下〉 ジェフリー・ディーヴァー   池田 真紀子 (訳)  (文春文庫)

リンカーン・ライムのいとこアーサーが殺人容疑で逮捕された。アーサーは一貫して無実を主張するも、犯行現場や自宅から多数の証拠がみつかり有罪は確定的にみえた。だがライムは不審に思う―証拠が揃い過ぎている。アーサーは濡れ衣を着せられたのでは?そう睨んだライムは、サックスらとともに独自の捜査を開始する。 :

おなじみのジェフリー・ディーヴァー作のリンカーン・ライムシリーズ。
今日の一冊は、2008年に本国で出版された「ソウル・コレクター」。

リンカーンのいとこアーサーが、殺人容疑で逮捕されることから物語は展開していく。アーサーは無実を訴えるが、アーサーと特定できる証拠品は完璧にそろっていて、アリバイを証明できなくて、現場から彼の車が走り去ったという証言電話までかかってきた。

非の打ちどころのない証拠に裏付けられた容疑者は、却って不自然だとリンカーンの捜査チームは動き始める。
この捜査チームの仕事ぶりは、ことにカマロを駆るブルネットの女捜査官アメリア・サックスの勇気ある追跡と、エクセルのこともまともに知らなくて、捜査対象者に馬鹿にされるルーキー捜査官の真摯な捜査が、とても人間的で魅力的だ。

コンピューターやネット社会が蓄積したビッグ・データには、とてつもない個人情報が含まれている。その個人情報を操作すれば、それも効率的にうまく操作すれば、権力さえ手に入れることができる。多くの個人情報を持つ官憲は、すでに権力を持っていてビッグ・データも持っていて、個人生活者には脅威となる。

ジョージ・オーウェルの「一九八四」を例に出すまでもなく、私たちは「ビッグ・ブラザー」のような権力に監視され続けているのである。
戸籍、前科、病院カルテ、指紋、カードショッピング、ネットショッピング、サイト訪問、電話、カーナビ、防犯カメラ、納税、eメールなどから、私たちの収入・生活・趣味・思想・行動・病歴などが誰かの目にさらされているのである。

そんなことを再認識させられる小説だった。でも、2008年の小説より、2013年の現実の方が、もっとドラマチックかもしれない。