遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

タンゴステップ/ヘニング・マンケル

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タンゴステップ〈上/下〉  ヘニング・マンケル  柳沢 由実子 (訳)   (創元推理文庫)



マイブログの「読書/ミステリー」書庫は、ここのところジェフリー・ディーヴァーとヘニング・マンケルのミステリーを交互に紹介している感がある。で、今回は、マンケルの小説のご紹介。

舌がんと診断され、手術を控えて休暇中のスウェーデンの南西部のボローズという都市の警察官ステファンは、元先輩の警察官が惨殺されたという夕刊記事を目にする。
ステファンはマヨルカ島でのんびり過ごす休暇を変更し、殺害された先輩警察官の住んでいたスウェーデンの中央部にあるヘリェダーレン地方へ、ボローズから北へ700キロも離れた地方へ、車を向ける。

被害者は、リタイア後人里離れたヘリェダーレンの森の中の一軒家で独り暮らしをしていた。大好きなタンゴを踊るパートナーはおらず、手作りの人形を相手にタンゴを踊る。
この小説のタイトル「タンゴ・ステップ」は、殺害された被害者の好きなタンゴから命名されているほか、隠された意味も含まれている。

殺人が起きた地方の警察官ではないステファンに捜査権はないのだが、先輩の死に方が気になり、地元警察官と共同で、時には単独で捜査を進めていくうちに、ナチスの影を発見することになる。

ヒトラーが死んでも、頭をそり上げた若者たちがネオナチと名乗って活動をしている。しかし、普通の姿をした白人至上主義者たちは、もうナチスとは名乗らずに、欧米社会に棲息している。
スウェーデンでもそれは例外ではなく、かつて国境を越えてヒトラーの軍隊にはせ参じた男たちや、その精神を営々と受け継いで維持している人たちが、主人公ステファンの前に出現する。

まだ手術前なのに、舌がんで死期が近づいていると嘆くステファンは、冬を前に雪がちらつくヘリェダーレンの低い空の下で、難事件を解決しようと奔走する。

37歳のスウェーデンの若き警察官の正義感に、じんわり感動する物語である。