遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

チャイナ・シンドローム/ジェームズ・ブリッジス

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チャイナ・シンドローム
監督 ジェームズ・ブリッジス
出演者
ジェーン・フォンダ
ジャック・レモン
マイケル・ダグラス

公開 1979年3月16日(米国)
上映時間 122分


1975年「カッコーの巣の上で」で映画制作デビューし、同作でアカデミー作品賞を受賞したマイケル・ダグラス。
彼の製作作品2作目にして、自らも出演した作品が「チャイナシンドローム」。

原発炉心溶融を表すチャイナシンドロームという一種のスラングのような言葉と、その恐ろしい現象のことを、
私も含めて全世界の人が初めて認知したのが、この作品のタイトルによってであった。

1979年に全米で封切り上映された2週後に、スリーマイルでの原発事故が起きたというから、
あの時アメリカは、この作品によるバーチャルな体験と、実体験で「チャイナシンドローム」の恐怖を味わったことになる。


とある原子力発電所を取材中のTV局のアンカー・ウーマンジェーン・フォンダと、カメラマンマイケル・ダグラス
彼らはその取材中に、地震の揺れを感じた。
その原発施設の中枢を担うコントロールセンターは、一軒平穏そうに見えた。

その原発の所長がジャック・レモン。
地震直後、コントロールセンターのメーターに異常は現れず、ジャックも余裕があったのだが、
あろうことか、炉心冷却水の推移を示す浮きの仕掛けになっているアナログメーターの針が、
満水の状態で引っ掛かったままになっていることをジャックが発見した。
引っ掛かり状態を直してみると、針は減水状態を示し、ジャックは慌てて炉心への給水を命令した。
炉心を冷やすべき水がなくなっていて、炉心が一旦露出し、炉心溶融になる可能性があることを察知した。

TV局のカメラマンマイケルは、それらの様子を隠し撮りしていて、
専門家にその映像を見せたところ、これは恐ろしいことになる寸前だったという。
ジェーンとマイケルは、この映像を放送しようと局に持ちかけるが、
局には放映を絶対阻止しようとする電力会社の圧力がかかり始めるのであった。

電力会社は、新しい原発施設を作るためのプロジェクトが進行していて、
この事故が公になると、原発反対派の動きに歯止めがかからなくなり、新規事業は暗礁に乗り上げると判断。
会社は事故の隠蔽を画策し、事故を公表しようと決心した事故当事者のジャック・レモンや、
映像を放送しようと奔走するジェーン・フォンダたちに、身の危険が生じる事態に陥っていくことになる。

原発運営コストを抑えるために、定期点検などを怠った結果生じた事故に知らん振りを決め込み、
電力会社の経営陣はありとあらゆる手立てで自らの正当性を主張し、
事故の実態とそれを明らかにしようとする正義を葬り去ろうとする。

事実の隠蔽と収益至上主義、正義派や反対派の追放、原発推進派にばら撒かれる資金などなど、
30年前の米国映画に、東日本大震災後の電力会社や原発ムラの住人たちを見たような気がした。
1979年から見た未来の原発周辺の景色は、想像通りのものだった。

ジャック・レモンは、福島原発の吉田所長と京大の小出さんと東大の児玉教授を、
足し合わせたような人物設定で、ジェーンとマイケルは社会派を地で行くような設定になっていた。

ようやく最後になって、孤立を恐れないジャックの正義を立証しようと報道陣に対して口を開きかけた、
同じ原発で働く親友の言葉や態度に、饒舌すぎない作品製作側の主張が感じ取れ、見事なエンディングになっていた。