この「葡萄図」だという。
この作品に心を打たれたプライスは、若冲のコレクションを始めた。
私もこの水墨画に心引かれ、
自分が虫に食われた葉っぱのように年老いてきて、
さらに愛着の湧く作品となった。
若冲は、若い勢いのある葡萄の葉や実だけでなく、
虫に食われた葉や、熟しすぎた実まで克明に描く。
掛け軸用の細長い寸法と形という制約された紙の中で
葡萄の枝や蔓は、グラフィカルにしなやかに、いきいきと伸びやかである。
水墨画は、山水を描いてそれを本道となすところがあるようだが、
若冲にとっては描きたいものを描くことが、彼の道なのだ。
この「葡萄図」、落款がなければ、紙(絹)にしみがなければ、
国籍不明で制作された時代も定かでない、インクで書いたペン画に見えなくもない。
この若冲の普遍性が、悲しいことに江戸絵画の邪道とみなされ、
作品群の海外流出に繋がったとも言える。
ジョー・プライスの、夥(おびただ)しくて、凄い若冲のコレクションは、
そう遠くない将来、わが国に返還されるような気がしてならない。
私の願望でもあるのだが、そういう気がしてならないのである。