「君たちに明日はない」のだから、
退職金を上乗せしますので、辞めていただけませんか。
と、人事部から委託されて、人減らしのためにリストラを請け負ってくれる会社。
いまや何でも受託してくれる会社があるので、
こんな会社があってもいいのかもしれないが、
そんな首切り稼業に、私は足を突っ込みたくはない。
若き主人公はそんなリストラ請負会社の有能な首切りマン。
実は本人も「辞めませんか」と言われて転職している。
音楽プロダクションの人減らしのために、
面談前にリストラ候補者のキャリアや業績といった基礎データを分析し、
戦略を練り、必要とあれば候補者の仕事振りまで観察する。
事前にここまでやられてしまうと、
返す言葉がない。
私の元にいきなりこういう人間が来られてしまうと、
手元になんのデータもないのが困ってしまうなぁ。
業績はあるのだけどデータとして成立していない、
自己防衛のためにまとめておくのもなんだか馬鹿みたいだし。
人事部は社員の業績など、何も知らない。
とにかく、頭数しか気にしていない。
小説に登場するリストラ候補者たちは比較的若く、
主人公の恋人もかつての面談者の一人だし、
同じ高校で同級生だった級友も、面談者の中に登場する。
つづけても将来はないことを自覚しているものや、
反対に、自分は会社に必要とされていると思い込んでいるものなど千差万別。
しかし主人公は、とにかくノルマの首切り数を達成すればそれで良しと、
クールをよそおう。
しかし、本当に幸せな選択は今の会社にしがみついていることなのだろうかと、
主人公は、彼らの側に立って考えられるところがクールである。
もう辞めればいいのにと思うのに、
次のロンドンを目指しますと言う柔道選手も居る。
うーむ、彼女には柔道は仕事なのだなといまさらながら思ってしまう。
作中の濡れ場の描写、汚くてこれはいただけない。
一体どういう感性でこんな表現をするのかと、びっくりする。
セクシーシーンがなくても成立している小説なのに、
これだけが惜しいと、私は思った。