遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

サウスポー・キラー/水原秀策

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サウスポー・キラー 水原 秀策    (宝島社文庫)



書店の平積みから、第3回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作、

という帯の文字につられて購入。


プロ野球を舞台にしたミステリ小説「サウスポー・キラー」。

主人公は、セリーグの架空の超人気球団オリオールズに属する、

左腕投手、沢村。


新聞社系オリオールズの試合は毎試合TV放映され、

実力がどうであれ、この球団に属していたという経歴で、

引退後も何とか飯が食える。


時の監督は、超人気選手だった過去を持つ。

しかし、采配は勘ピュータをもとにしているのでさっぱりさえない。

投手起用はでたらめ、なのだが、

国民的人気を背負った元選手兼監督だから、

その采配ぶりに誰もイチャモンはつけない。


ここまで書けばどの球団をモデルに仕立てたかお解かりであろう。


この球団オリオールズに属する左腕投手には、

なぜか不幸が付きまとう。

入団2年目の若くてイケメン実力派沢村にも、

その影が忍び寄るところから物語が始まる。


ちなみに、かの永久欠番14番の沢村栄治は右投げであったし、

この主人公の背番号は、阪神のかつてのサウスポーのスーパースター

江夏豊がつけていた28番である。



野球もミステリも中途半端だという向きもあろうが、

私のように、そのどちらも大好きで、

職場や家庭から解放された通勤電車での読みものとしては、

絶好の1冊であった。



ベテラン女性スポーツ記者、美しい駆け出しの女優、

レッドソックスカート・シリングのごとく後輩の面倒見がいい先輩エース、

主人公に一定距離を置くうさんくさいコーチや同僚、

人気球団を育て上げた話のわかるオーナーと、野球を知らないそのバカ息子の副社長、

主人公につきまとう神出鬼没の黒豹のような謎の男、

などなど、多彩な人物が登場して主人公を盛り上げてくれる。



主人公が先発のマウンドで投げる、

あるいわくつきのゲームの臨場感は、

この作品のクライマックスを飾るに相応しいものであった。



奥付に記された、参考文献は野球好きには非常に興味深いもので、

こちらの方も何冊か読みたい気分にさせられたことを付け加えておく。