遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

フィルハーモニーの風景/岩城宏之

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フィルハーモニーの風景 岩城 宏之 (著)



著者の岩城宏之は、著名なエッセイストではなく、

日本を代表する大指揮者である。


岩城は、東京芸大では故山本直純と同級であった。

直純は、作曲科に在籍しており、父に作曲家・指揮者の山本直忠をもつ、

いわば音楽界のサラブレッドであった。


岩城は打楽器科に在籍しており、当時在籍者は同学年で2名だった。

もう一人の方が、既にジャズ・ドラマーとして活躍していた白木秀雄であった。

白木は、水谷良重と結婚し、ジャズシーンで一世風靡の後、39歳で夭折している。


岩城は、同年の山本と白木にコンプレックスを抱いていたようだ。

「僕は木琴しかできないダメ学生だった。」と、

指揮者として名を遂げてからそう語っていたのを聞いたことがある。



話は逸れるが、美空ひばりが亡くなった時(1989年享年52歳!)、

岩城は週刊朝日で、追悼文を書いた。

大指揮者に追悼文を書かせる、美空ひばりという人も凄いものである。

岩城は、美空ひばりの音程の確かさは、地球で一番だという。

ひばりの録音したもの(レコード)、生で歌ったもの(TV放映・ライブ録音)、

とにかく、あらゆるものを徹底的に聞きまくったが、

ただの一度も音程が僅かでも狂ったものはなかった。

確か、聴き手に伝える力や、発声のことなども褒め称え、

マリア・カラス以上のプリマ・ドンナだとも言った。(と記憶している。)


単純な私は、その岩城の文章を読んで以来、美空ひばりの見方が変わった。

すでに亡くなってはいたのだが。


ひばりが亡くなった翌年に、岩城の「フィルハーモニーの風景」が出版された。


私は躊躇せずその本を購入した。

岩城のコンサートに行くまでには、まだ少し時間を要する時期であった。


フィルハーモニーの風景 岩城 宏之 (著) 岩波新書 ; 新赤版 135  価格: ¥735 (税込)

目次
1 ウィーン・フィルの秘密       4 ハープの運び屋さん
2 ベルリン・フィルの表情       5 指揮棒のこと、ホールのこと
3 舞台裏の風景

出版社からの内容紹介
ウィーン・フィルベルリン・フィルの素晴らしい音色は,楽員たちのどんな苦心によって磨かれ,華やかなコンサートの舞台裏では,どんな人たちがそれを支えているのか.日本を代表する指揮者として第一級のオーケストラの素顔を見てきた著者が,興味深いエピソードをまじえつつ,その表情を軽妙な筆致で描き出す。


私はクラシックが大好きだが、イイ演奏や上手い演奏家が、

ホントのところよく解らない。


下手なのはよく解る。

一番最近行ったコンサート、「ブラームス交響曲1番」であったが、

認められない演奏会であった、指揮者がダメであった。

詳しく書くと傷つく人がいるのでやめておくが、ダメな演奏は解る。


が、一定程度以上のレベルになると、悪いところが解らない。

演奏会に行ったりCDを買ったりする時には、名声や伝統や定評に頼ることになる。

そういう情報がインプットされていて、感動することになる。

事前情報が無ければ、心を動かされないのだろうか? よく解らない。

しかし、ずぶの素人が音楽を楽しむのに、理屈はあまり必要ないとも思う。

金返せ的演奏会には、ブーイングは必要だけど。


この書では、ウィーン・フィルベルリン・フィルの素晴らしさを讃えた章が、

前半にある。

彼らの技術をたとえて、その響きが「オルガン」のようだと岩城は言う。

オルガンのようにひとつのトーンで響くオーケストラであると言う。

いやはや、この両横綱フィルは、さすがにさすがである。私にもそれだけは解る。


私のような素人でも、楽しくて仕方のない読み物に仕上がっている。

著者は、一流の書き手でもあることは間違いない。


と並んでお奨めする。



岩城宏之著「森のうた―山本直純との芸大青春記」も、メッチャ面白そうな予感がする、

読んでみることにする。