遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

レッド・ドラゴン/トマス・ハリス

イメージ 1

レッド・ドラゴン 〈上・下〉 ハヤカワ文庫NV
トマス ハリス (著)   小倉 多加志 (訳) 価格: ¥800 (税込)


レッド・ドラゴン」は、ハンニバル・レクターが初登場した作品。


ハンニバル・レクター、映画「羊たちの沈黙」で、アンソニー・ホプキンスが演じた。


悪役で始めて、オスカーの主演男優賞を獲得した。


しかし、映画を観るまで私のイメージしたレクターは、

アンソニー・ホプキンスとはまったく異なっていた。


イメージしていたレクター像は、

アンディ・ウォーホールの風貌であった。

映画を観てからも、私の中のイメージは変わっていない。


ホプキンスは、執事役にはピッタリだろうが、

ハンニバル役には、俗っぽくて適していない。

演技者自身の性格の悪さが見え隠れして、邪魔である。(要するに私が嫌いなだけなのだが。)


「インテリだけど凶悪な性格の持ち主」、のような簡単な設定ではいけない。


ホプキンスでは、レクターワールドを演じるのは、役不足である。

レクターの「違う世界にイッている」という感じがしないのである。



レッド・ドラゴン」は「羊たちの沈黙」の前作。


私は、「羊たちの沈黙」を読み、映画を観た後、遡ってこれを読んだ。

羊たちの沈黙」でジョディ・フォスターが演じたクラリススターリングはまだ登場しないが、

ハンニバル・レクターはもちろん、クロフォードもチルトンも登場する。

そして、非常に優秀な「呼び戻された」FBI捜査官ウィル・グレアムを中心に物語は展開する。


順番に読まなくても、まったく違和感はない、素晴らしい。


トマス・ハリスは、寡作な作家であるが、

読み手をファンタジーな世界へ連れて行ってくれる、

そういう力強さを備えた、優れた書き手である。



映画「レッドドラゴン」を観てしまった方にも、お奨めする、

イイ意味での違和感があると思う。(私は映画は未見であるが。)

映画では見えてこない世界がある。

小説は、違う世界へ連れて行ってくれる。

秋の夜長を、たっぷり堪能されたい。



文庫の表紙の絵は、(私の読んだのは違うデザインであった)

ウィリアム・ブレイクの水彩画:「大いなる赤き竜と日をまとう女。
               《The Great Red Dragon and the Woman Clothed in Sun》


ウィリアム・ブレイクは、完全に、

トマス・ハリスは、相当に、

「違う世界にイッている」。