スモールワールズ 一穂 ミチ (著) 講談社
一穂ミチの「スモールワールズ」は、直木賞の候補にもなったし、その前から多くの書評に取り上げられていて高い評価を受けていた。「小説現代」に連載された短編が本書として2021年4月に上梓されていて、ようやく年を越して私は読了した。
本書は全6篇からなるが、第1話の「ネオンテトラ」を読んで、いきなり「これはこれは…」とただならぬ気配を感じ、著者の一穂ミチのことを調べたのだった。
著者は大阪に生まれていまだに大阪在住のBL(ボーイズラブ)作家で、一般小説を書いたのは本書がはじめてとのこと。年齢(40代後半か)も本名も顔形も分からないお方だ。
第2話の「魔王の帰還」では、出戻ってきた巨体の姉を中心としたストーリーで、その魔王のような恐怖の姉への弟の毒づきツッコミが可笑しくて、何度も吹き出してしまった。さすがは大阪在住で、私と肌合いがピッタリのユーモアセンスである。でも、後半はしんみりとした人間賛歌になる。
そして、第3話は「ピクニック」が、本人の意識しないところで日本推理作家協会賞短編部門にノミネートされたそうだ。
最終話「式日」では、後半に差し掛かったところでハッとさせられうろたえて、もう一度「検証」のために最初から読み直した。
さすがにBL作家だからか若い男がよく書けているけど、おじさんも女たちも素晴らしくて、全6話の「小さな世界」は、それぞれが独特の落ち着いた輝きを放ちつつ、じんわりと読み手を圧倒する。
これでデビューして、次はどうするの?と心配になるが、もう次が出ているようなので読んでみることにする。
著者一穂ミチがお気に入りの小説を挙げていた「一穂ミチさんの読んできた本たち」https://book.asahi.com/article/14396642
では、下に書いたように私が好きな小説がずらりと並んでいて、嬉しくもあり、さもありなんと納得した。
パトリシア・コーンウェル「検屍官」シリーズ
高村薫『マークスの山』『黄金を抱いて翔べ』
夏目漱石『硝子戸の中』『行人』『夢十夜』
トマス・ハリス『羊たちの沈黙』
小池真理子『恋』
朝吹真理子『TIMELESS』
イーユン・リー『千年の祈り』
ベルンハルト・シュリンク『朗読者』
村上春樹『アンダーグラウンド』
桐野夏生『柔らかな頬』『グロテスク』
新年早々良本に出会った、「こいつぁ春から縁起がいいわえ」といった心境である。ぜひ読んでいただきたい一冊であります。